武満徹が音楽を担当した映画は100本を数えます。本全集では、武満徹の映画音楽を可能な限り収録します。ただし、初期の映画のうち何本かは行方不明となっており、現在、その所在を調査中です。また第5巻にはこれまでほとんど耳にすることのなかったテープ作品、舞台音楽などの武満作品を発掘、収集しました。また、本全集刊行中に新しく発見された作品は、第5巻の補遺に収録の予定です。
初期の映画の音声は、生演奏の音楽と効果音とセリフを同時にフィルムに焼きつける光学ダビングで、音楽だけを別のテープに録音することは、まだ行われていなかった。武満が映画の仕事を始めた頃、ようやくテープレコーダー、すなわち6ミリテープが使われるようになった。まず音楽をテープで録音し、それを映像に合わせて再生し、セリフ、効果音とミックスするというやり方である。
武満徹の映画音楽が録音されているオリジナルの6ミリテープ、我々はまずこれを捜し出すことから始めた。しかしこのテープ、映画を作る過程の素材であり、映画が完成すれば用はない。素材まで保存する映画製作会社は稀である。それでも東宝、松竹といった撮影所は、ある時期まではそれらの音楽テープをきちんと保存していた。しかしそれら素材の管理は少しずつおろそかになっていく。独立系の製作会社は、映画が完成すればそのプロジェクトは解散するというものも多く、心あるところを除いては、音楽テープの管理など程遠い現状であった。
 
今回の調査は、まず大手の撮影所の倉庫、続いて独立プロから始められた。しかし現存する独立プロは少ない。次に当時の録音技師、音楽関係者、武満本人が手許に残していたテープを捜していく。記録映画のものとなると気が遠くなる。こうして、ようやく映画音楽のテープは集められた。
選曲編集に関しては、素材の残るものは主要テ−マだけでなく、できるだけその映画音楽を構成する全要素を、映画に使われている順に、収録した。また武満自身が選曲構成して発売されたサウンドトラック盤はそのまま収録するようにした。今から20年程前、「武満徹映画音楽全集」(秋山邦晴構成、LPレコード10枚、ビクター)が出たが、この時に収録された作品で、今は元のテープがなくなっているものも多数ある。そのとき選曲、編集された作品がレコードマスターという形で残っていることは、今回の企画にあたりどんなにか助かったことか。レコ−ド化は、その後の消失の堰止めになる。
発掘、収集した音源は、現在では放送局にも見かけなくなったスイス、スチューダー製のアナログデッキにかけ、さらに不要なノイズを取り、原音に忠実にデジタル変換し、CDRに保存した。
今回の全集は、武満映画音楽の散逸を防ぐ、徹底的かつ最後の堰止めなのである。
岩瀬政雄(本全集映画音楽リサーチ)
40年ぶりに武満徹作曲の舞台音楽やラジオドラマが甦ります。1950年代後半から、武満徹は数々の劇音楽を残していました。今回の調査で劇団四季に遺されていたオープンリールテープ46巻を発見。舞台用のマスターテープは鮮明な音で残されていました。このほかTV・ラジオ作品、校歌、コマーシャル、町歌など埋もれていた作品、秘蔵の音源を多数収録いたします。