本全集では録音ディレクターとして録音家の福井末憲氏がマスタリングを担当、すばらしい音質のCD作成をめざします。また、CD製作の最終工程では、専用電源の強化、音質厳選ケーブル、原盤作成の高精度化をはじめ、マスターのクオリティーを損なわないODME社製高品質CDガラスマスタリングシステムを採用、音質重視のライン設計で格調高く、ナチュラルなトーンを実現します。
音楽録音は高音質であることがよいに違いありませんが、コンサート会場での記録録音や、草創期より名盤といわれるプログラム・ソースは必ずしも好条件で録音されているとはかぎりません。もう、十数年以前のことですが、私は、ある原盤会社より依頼のマスタリング(整音)音源を抱え、長野県御代田の武満徹先生の別荘をお訪ねしました。音源の状態がよくなかったので、整音後の音楽をお聴きいただくためでした。
持参の作品を聴いていただき、「これいいじゃないですか……」のお言葉に、緊張して干し柿のようになっていた私の脳味噌は、信州の青空に一気昇天の思いでした。
今日、音楽業界でいわれるところのマスタリングとは、あらゆる音響機材を駆使して、完成マスター音源をさらに操作し、実力以上の個性的なキャラクターに仕上げ、CD再生時に少しでも目立つようにするのが一般的です。
これに反して、私のマスタリング方式は、オリジナル音源の持つ音楽性を電気的に変化させてしまう方法でなく、ネイチャー・イコライゼイション(Nature Equalization) の手法を用い、素材の有する音源キャラクターはいっさい変化させず、マスタリング・システム間の接続ケーブル素材や、プログラム・ソースの質によりその配線方向を変化させ、巧みに自然界の力を活用して、お預かりした貴重な武満作品のオリジナル・マスター音源を尊重し、聴きやすく、躍動感溢れ音楽性豊かなCD作品に仕上げる方法が用いられます。
御代田で武満先生にお聴きいただき、先生よりお墨付きをいただいた音源も、このネイチャー・イコライゼイション・マスタリング方式であったことはいうまでもありません。
福井末憲(本全集録音ディレクター)