僕には前、マー君という大変仲のいい友達がいたが、ある日、電話でふとしたことがもとで口論となり、僕はうんざりしたのでマー君のいうことをただハイハイと聞き、以来二度と連絡しなかった。
マー君のほうも、僕にうんざりしたのだろう、僕に連絡してくることはなかった。
そのことを他の友達に説明するのは面倒だった。
僕とマー君はいつも一緒に遊びにいっていたから僕の友達はマー君の友達でもあるわけで、人にあうたびに「あれ、今日はマー君は?」とか、ひさしぶりに人にあっても「マー君元気?」と聞かれるのだ。
それを聞かれるたびに「マー君とはもう友達ではない」というのは厄介だったが、言わないとあとあと余計に厄介なことになるので、ありのままを言うと、みんな驚いて、「なんで?」と聞いてくる。
自分でもその時の状況を思い出してみようとするのだが、具体的に何が原因なのかは忘れてしまったし、どっちにしろ人に説明するようなことではなかった。
ただ、あの時はかなりうんざりしたのを思い出すだけだった。
そのことで一番厄介だったのは、アメリカの友達、ティムが一年ぶりに日本に来た時だった。
前回ティムが来た時は僕とティムとマー君で飲んで、大いにはしゃぎ、ティムは相当楽しかったらしく、手紙が来るたびにそのことが書いてあったし、今回日本に来ることになった知らせにも、「マー君に会えることをすごく楽しみにしている」と書いてあった。
そして実際ティムが来て、[He is not my friend anymore.]と言うと、ティムは驚いた顔をして[Why?]と聞いてきた。
それで、ティムは他の日本人と違い、適当に言っても納得しないのを知っていたから言っても分かってもらえないだろうとは思いながらも、記憶と蘇るむかつきを処理しながら説明してみた。
しかしやっぱりティムは納得しないようだった。
彼は原因さえ忘れてしまうようなことで友達と縁を切るのは間違っていると主張した。
僕もそれには一応賛成した。
彼はさらにこう続けた。
「君はきっと恥ずかしいだけなんだ。
もし、君に少しの勇気と寛大さがあれば、素晴らしい友情が君の手に戻ってくる」と。
確かに恥ずかしいというのもあるし、彼との仲が戻ればまた楽しいこともあるとは思うけど、よく思い出そうとしても原因よりもあのうんざりした気持ちがぶりかえしてきて、それは本当に嫌だったし、マー君は楽しい反面かなりだだっ子なところがあって、それがうんざりした原因の大きな部分なんだけど、彼と縁が切れて寂しい気持ち以上にさっぱりした開放感みたいなものがあったので、やっぱり彼と仲直りする気にはなれなかった。
そのことを僕はティムに説明してみたがティムはもちろん納得しなかった。
それどころか、今すぐマー君に電話して彼を連れてこい、と言った。
ぼくが「いいよ(嫌だという意味)」と何回も言ったのに彼はだんだん興奮してきて無理矢理にでも電話させようとするから僕はそのことにもうんざりし、今ではティムとも友達ではない。
僕はそんなにマー君と会いたければマー君の電話番号をおしえてあげるから二人で会えばいいじゃないか、と思ってマー君の電話番号を教えてあげようと思ったが、今度はマー君がティムに強制されて僕に電話してくることになりそうだったからやめた。
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