何だか面白そうなので、僕は今日は一日耳栓をする日に決めました。
僕には何も聞こえません。
「何も」といのは大げさですね。
車などのうるさい音は「ボワ〜ン」と変な感じの音になります。
また、耳を澄ませば自分の身体の音が聞こえて、何だか神秘的です。
街を歩けば、無声映画みたいでおもしろいです。
携帯電話が鳴りました。
といっても鳴っても分からないからバイブレーションにしておいたの。
携帯をみます。
あ、彼女からだ、「もしもし」とは言ったものの向こうの声は聞こえなかった、忘れてた。
だから僕はこう言った。
「ごめんね、今耳栓してるんだ、今日は耳栓する日って決めたんだ。
いくら君でもそのために僕の決めたことを変更できないよ、じゃあね切るね」そうして一方的に電話を切った。
するとまたかかってきた。
だから言ったじゃないか、「もしもしごめんね、何を言っても無理だよ、僕は聞こえないんだから、明日になったら今日の実験結果を報告するよ」そういってまた切ってしまった。
そうして僕は無声映画の街を楽しみ、またある時は耳が本当に聞こえない人の不便さを知り、とにかくアパートに帰った。
スーパーでやきそばの材料を買ってきたんだけど、耳が聞こえないことに不便はなかった。
家で焼そばを食べているとさっきからドアが何かドンドンいってるみたい。
音と言うより振動で気がついた。
だから本当はすごく大きな音なんだろう。
開けてみると彼女が鬼のような顔で入ってきた。
何か怒っている、凄い勢いで何か言っているけど、おい、だから言っただろ、時計をみたら9時25分、あと二時間半まってくれ、とにかく今日はこのままいたいんだ。
「言いたいことがあったら紙に書けばいいじゃん」と言った。
ちゃんと伝わってないのかと思い、「紙にかけばいいじゃん」と書いて見せたら、彼女はその紙をくしゃくしゃに丸めて僕に投げつけ泣きながら出ていった。
「鬼の目にも涙」という言葉が頭をよぎったが本当は何だったのだろう?
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