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 ナイン・ストーリーズ
 
J.D.サリンジャー/著 柴田元幸/訳 
出版社:ヴィレッジブックス 定価(税込):1,680円  
第一刷発行:2009年3月 ISBN:978-4-86332-050-5  
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35年ぶりの新訳による、最高の9つの物語。
 
J.D.サリンジャー/著 柴田元幸/訳

本の要約

『モンキービジネス Vol.3』で一挙掲載し、たちまち完売となった柴田元幸さんによる新訳『ナイン・ストーリーズ』。多くの反響にお応えし、このたび単行本として発刊することとなりました。刊行から50年以上を経過した今もなお感じる“新しさ”。不朽の名作を新訳でお楽しみください。


オススメな本 内容抜粋

ホテルにはニューヨークの広告マンが九十七人泊まっていて、長距離回線を独占し
ているものだから、五〇七号室の女の子は電話がつながるまで正午から二時間半近く
待たねぽならなかった。でもそのあいだの時間はしっかり活用した。ポケットサイズ
の女性誌で「セックスは楽しい─それとも地獄?」と題した記事を読んだし、櫛と
ブラシも洗った。ベージュのスーッのスカートについた染みも抜いた。サックスで買
ったブラウスのボタソの位置を変え、ほくろに新たに出現した毛二本も抜いた。オペ
レーターがやっと電話してきたとき、女の子は窓際の作りつげの椅子に座って、左手
の爪にマニキュアをほぼ塗り終えたところだった。
彼女は電話が鳴ってもいっさい何も中断しないタイプの女の子だった。電話なんて
思春期に達して以来ずっと絶え間なく鳴っているみたいな顔をしていた。
小さなマニキュアのブラシを手に、女の子は電話が鳴っているのをよそに、小指の
爪に取りかかり、爪半月のところにアクセソトをつけていった。それからマニキュア
の壕に蓋をして、立ち上がり、左の濡れた方の─手を宙で前後に振った。そし
て乾いた方の手で、吸殻の詰まった灰皿を窓際の椅子から取り上げ、ナイトテーブル
まで運んでいった。電話はそのナイトテーブルに載っている。メークしてあるツイン
ベッドの一方に女の子は腰を下ろし、それから── 五回目か六回目のベルで受話
器を手にとった。
「もしもし」と彼女は、左手の指をぴんと伸ぽして白い絹のドレッシングガウンから
遠ざけて言った。身に着けているのはそのガウンと、つっかけ靴だけ。指輪はバスル
ームに置いてあった。
「ニューヨークへのお電話がつながりました、ミセス・グラ!ス」とオペレーターは
言った。
「どうも」と女の子は言って、ナイトテーブルの上に灰皿を載せるスペースを空けた。
女性の声が聞こえてきた。「ミュリエル?あんたなの?」
女の子は受話器をわずかに回して耳から離した。「そうよ、母さん。元気?」と彼
女は言った。


(本文P. 8〜9より引用


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