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 恋文の技術
 
森見登美彦/著 出版社:ポプラ社 定価(税込):1,575円  
第一刷発行:2009年3月 ISBN:978-4-591-10875-8  
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遠方の実験所に送られた男子大学院生が、友人知人に手紙を書きまくる。森見節満載の、ヘタレでキュートな恋の書簡体小説。
 
恋文の技術 森見登美彦/著

本の要約

京都の大学から、遠く離れた実験所に飛ばされた男子大学院生が一人。無聊を慰めるべく、文通武者修行と称して京都に住むかつての仲間たちに手紙を書きまくる。手紙のうえで、友人の恋の相談に乗り、妹に説教を垂れ―。

森見 登美彦 (モリミ トミヒコ)
1979年、奈良県生まれ。京都大学農学部卒、同大学院農学研究科修士課程修了。2003年『太陽の塔』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。2007年『夜は短し歩けよ乙女』で山本周五郎賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


オススメな本 内容抜粋

四月九日

拝啓。
お手紙ありがとう。研究室の皆さん、お元気のようでなにより。
君は相も変わらず不毛な大学生活を満喫しているとの由、まことに嬉しく思います。その調
子で、何の実りもない学生生活を満喫したまえ。希望を抱くから失望する。大学という不毛の
大地を開墾して収穫を得るには、命を懸けた覚悟が必要だ。悪いことは言わんから、寝ておけ
寝ておけ。
俺はとりあえず無病息災だが、それにしてもこの実験所の淋しさはどうか。
最寄駅で下車したときは衝撃をうけた。駅前一等地にあるが、目の前が海だから、実験所の
ほかは何もない。海沿いの国道を先まで行かないと集落もない。コンビニもない。夜の無人駅
に立ちつくし、ひとり終電を待つ俺をあたためてくれる人もない。流れ星を見たので、「人恋
しい」と三回祈ろうとしたら、「ひとこい」と言ったところで消えてしまった。どうやら夢も
希望もないらしい。この先、君が何かの困難にぶちあたった時は、京都から遠く離れた地でク
ラゲ研究に従事している俺のことを思い出すがよい。というか、君も能登へ来い。そして、こ
の孤独を味わうべきだ。
指導してくれる谷口さんという人は妙な人だ。むかしの刑事ドラマに出てくる犯人みたいな
ジャンパーを着て、髪はくるくるで、体はがりがりである。金曜の夜になると実験室の物陰で
マンドリンをかき鳴らし、自作の歌を裏声で歌う。男に捨てられた女の歌だ。そして謎の腔腸
動物をひたしたコーラを飲み、涙目になりながら「どうだ?」と俺に無理強いする。その不気
味な液体は精力を増強させるそうだ。この静かな海辺で黙々と精力を増強し、いったい何にそ
なえるというのか。
ここへ送り込んでくれた教授に、俺は一生涯、感謝の念を捧げることであろう。
俺がアパートを借りたのは「七尾」というところだ。能登半島の根っこにある町で、実験所
から電車で三十分ほどである。アパートのまわりは、美術館や高校がある。昨日は土曜日だっ
たから近所を散歩してみた。駅の向こう側には商店街とか大きな公園があるらしいから、いず
れ出かけてみようと思う。しかし、知らない町で暮らすのは初めてだから、どうも落ち着かん。
今日は一日中、アパートの部屋にこもって手紙を書いている。
この一週間、実験所ではほとんど喋っていない。喋ってくれるのは谷口さんだけだ。会話の
半分は怒られている。谷口さんは俺を叱り飛ぽす合間にクラゲを観察し、謎の液体で精力を増
強してばかりいる。


(本文P. 8〜9より引用)


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