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 茨の木
 
さだまさし/著 出版社:幻冬舎 定価(税込):1,500円  
第一刷発行:2008年5月 ISBN:978-4-344-01501-2  
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『精霊流し』『解夏』『眉山』…累計150万部突破のベストセラー作品に続く、待望久しい感動の長編小説。気づかれないほど小さくとも、植物には必ず花が咲く。人にも、きっと――。「もう来んでよか」それが、最後に聞いた父の言葉だった。突然逝った父、喧嘩別れした兄、ロンドンで邂逅した「初恋の人」。父の形見のヴァイオリン作者を尋ねる旅が教えてくれたのは、かけがえのない家族との絆と、人を愛するということだった。
 

本の要約

四十八歳の真二は、二年前に編集者の仕事を辞め、妻とも離婚していた。そんな彼の元に、半年前、父の葬儀で喧嘩したきりの兄・健一郎から、突然父の形見のヴァイオリンが届く。そのヴァイオリンを修理に出した直後、健一郎の病を知る。兄の思いをはかった真二は、ヴァイオリンの作者を求めてイギリスを訪れ、そこでガイドとして現われた響子に、初恋の女性の面影を重ねるのだった。多くの人の親切に助けられ、ついに辿り着いた「父の背中」と、そこで真二が見たものは…。待望久しい感動の長篇小説。

さだ まさし (サダ マサシ) 
1952年長崎市生まれ。73年、フォークデュオ・グレープとしてデビュー。『精霊流し』『無縁坂』が大ヒット。76年のソロデビュー後も、『雨やどり』『関白宣言』『北の国から』など数々の大ヒット曲を生み出す。2002年3月には、ソロになってから通算3000回目のコンサートを達成。同年9月よりデビュー30周年コンサートを東京・名古屋・大阪で開催。01年、初の書き下ろし長編小説『精霊流し』、02年『解夏』、04年『眉山』(すべて幻冬舎文庫)を発表。08年、最新アルバム『Mist』をリリース(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


オススメな本 内容抜粋

「f孔」というそうだ。
ヴァイオリンの表板にはfという文字の形がシンメトリーに二つ穿たれている。それは音を外へ出
すための孔で、ギターの表板にある丸いホールと同じ性質のものだ。
何故その形がfなのかは誰に訊いてもよくわからない。ヴァイオリンの「謎」の一つだそうだ。
f孔には製作者によって個性的な「型」があるそうで、落款のようなものと考えればよいらしい。
その楽器のf孔は有名なストラディヴァリウスのものを模してあるのだというが、勿論、模してある
だけであってストラディヴァリウスとは無関係だ。
去年の九月、脳溢血で急逝した父の遺品である。
父が死んで半年ほど経った今年の三月半ばになって、不意に兄の健一郎からこのヴァイオリンが送
られてきた。
「形見分け」のつもりだろうか。古い灰色の布カバーをかけた、薄汚れて徽のふいたケースに入れら
れたその楽器には、兄の手紙が添えられていた。手紙といってもいかにも生真面目で不器用な兄らし
い、無愛想なものだった。
B4ほどの大きさの三つ折りの和紙を開くと、下手くそな縦書きの筆文字でいきなり「提案書」
あり、続けて、
一、この楽器は父の遺品のひとつである
一、受け取ったら返事を書くこと
一、できるだけ早く実家に顔を出すこと
一、母親に電話くらいすること
一、盆には帰ること
一、この楽器が不要なら三十日以内に送り返すこと
                                       以上、健一郎
と記してあった。
勿論、兄にこの楽器を突っ返す気はないが、三十日以内、というくだりには、通販でもあるまいし、
と、真二は思わず吹き出した。
いかにも真っ正直な兄らしい文面だが、さて、これを手紙というのだろうか、と思ったらまた笑え
てきた。果たし状のような口調の、これはまさに兄が記した通り、「提案書」なのだろう。
兄は、父によく似ている、と改めて思う。父の真一はやはり不器用な上に几帳面な性質で、是は是、
非は非、これは右、これは左、と、いちいち書面や図面にして確認しなければ前に進めないようなと
ころがあった。
だから何かというと子供の頃から「誓約書」だの「契約書」といったものを書かされた記憶がある。
遊園地に連れて行ってほしい、と甘えたときも、兄と二人で犬を飼いたい、と頼んだときも、中学
生になった真二がギターが欲しい、とねだったときにも、懇願すれば最後にはきっと許してくれたの
だから子供には甘い方の父親だったが、しかし必ず「誓約書」だの「契約書」だのを書かされたもの
だった。
「金のことやなか」父は真顔でそう言った。
「物を手に入れるとには必ず代価の要るっちゃけん。お前達には金のない分、親が立て替えてくれる
っちゃろうが。そんなら心ば示さにゃつまらん。こりゃ他ん誰かなら、尚更たい。金はないばってん、
心で払います、っちゅうことたい。そいが代価たい。心で支払う”約束”っちゅうもんたい」
父の若い頃の生真面目そうな顔を久しぶりに思い出した。それから、父が亡くなる少し前に、家業
のことで喧嘩になって、真二が逃げるように家を飛び出したときの悲しそうな母の顔も。
  福岡市早良区にある実家は兄で四代目になる酒屋だ。何代目、などと数えるのが恥ずかしいほどの
小さな店だが、生まれ育った我が家である。
去年の春の終わり、祖父の法事で帰郷した真二は、父と兄と三人で日の落ちる前から酒を飲み始め
ていたが、何かのきっかけで店の話になった。
真二は時代の流れを説いて、流行のコンビニエンス・ストアか、酒類などの安売り量販店のチェー
ンに加わるよう父に進言した。父は不機嫌そうな眼差しで真二を睨みつけたきり黙り込んだ。


(本文P. 5〜7より引用)


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