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 ゴールデンスランバー A MEMORY
 
伊坂幸太郎/著  出版社:新潮社 定価(税込):1,680円  
第一刷発行:2007年11月 ISBN:978-4-10-459603-4  
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「俺はどうなってしまった?」「一体何が起こっている?」首相暗殺の濡れ衣を着せられた男は、国家的陰謀から逃げ切れるのか。
 
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本の要約

仙台で金田首相の凱旋パレードが行われている、ちょうどその時、青柳雅春は、旧友の森田森吾に、何年かぶりで呼び出されていた。昔話をしたいわけでもないようで、森田の様子はどこかおかしい。訝る青柳に、森田は「おまえは、陥れられている。今も、その最中だ」「金田はパレード中に暗殺される」「逃げろ!オズワルドにされるぞ」と、鬼気迫る調子で訴えた。と、遠くで爆音がし、折しも現れた警官は、青柳に向かって拳銃を構えた―。精緻極まる伏線、忘れがたい会話、構築度の高い物語世界―、伊坂幸太郎のエッセンスを濃密にちりばめた、現時点での集大成。

著者紹介 伊坂 幸太郎 (イサカ コウタロウ) 
1971年千葉県生まれ。’95年東北大学法学部卒業。’96年サントリーミステリー大賞で、『悪党たちが目にしみる』が佳作となる。2000年『オーデュポンの祈り』で、第5回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しデビュー。’03年『アヒルと鴨のコインロッカー』で第25回吉川英治文学新人賞を、’04年「死神の精度」で第57回日本推理作家協会賞短編部門を受賞した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


オススメな本 内容抜粋

樋ロ晴子

樋口晴子は、平野晶と蕎麦屋にいた。「四年ぶり」と、遅れてきた平野晶は遅刻を詫びることも
なく言い、「変わらないねえ」と椅子に座った。「日替わりランチを二入とも」白い上っばりを着た
店員に即座に注文する。
仙台駅近くの生命保険会社のビル、その地下にある飲食店の並び、突き当たりに位置した店だっ
た。平野晶が勤めている家電メーカーの事務所に近く、樋ロ晴子が同じ会社に勤めていた時には二
人でよく、そこの蕎麦屋を訪れた。四年ぶりに再会する待ち合わせ場所としては相応しく思えた。
「変わらないねえ」平野晶がもう一度言う。
「ほんと。メニュー同じだよね。でもさ、ざる蕎麦についてくるわさびが、自分で揺るやつじゃな
くて、練りわさびになったよね」
「じゃなくてさー、晴子ちゃんがだよ。本当に子持ちなわけ」
「四歳と九ヶ月」
「わたしは、三歳と三三九ヶ月」平野晶は真面[日な顔で言う。
「暗算?」
「合コンでよく使うからね、これ」
合コンいいなあ、と樋口晴子は目を細め、四年ぶりの平野晶をしみじみと眺める。小柄で細身の
体型、茶色にした髪にパーマをかけている。くっきりとした二重瞼、唇は少し厚みがある。化粧は
薄い。十一月下旬の仙台はすでに肌寒く、街を行く人々の多くもコートを羽織りはじめていたが、
平野晶は黒い長袖のニットを重ねているだけだった。
「あのさ、前から聞きたかったんだけど、晴子ちゃんて、わたしのこと職場でどう思ってた?い
っつも隣の席で、男の話題ばっかりだし、馬鹿にしてた?見下してた?なんかわたしのこと、
『晶さん』って、さん付けだったし、距離を置いてた?」
「見上げてた」
「何それ」
自分と同い年ではあったが、どこそこの得意先の男が恰好いいだとか、今付き合っている男の性
癖はこうだとか、女の自分が見てもエロい下着を見つけただとか、そういった話題を澄刺と口にす
る彼女が、樋口晴子には羨ましかった。「生命力に溢れてたし」
「溢れる生命力って、ゴキブリに使う表現だよね」平野晶が片眉を下げ、苦々しそうにした。
「でも、仕事中でも、彼氏から電話がかかってくると、『課長!有給休暇これから取っていいで
すかー』って大声で言って、それでも社内で嫌がられないのって、凄いと思う」
「そんなにしょっちゅうじゃなかったでしょうに」
「結構、あったよ」樋口晴子は笑う。
「それはね、一応、状況も見てはいるんだよ。今日は早退しても平気だろうな、とかさ」
「ちゃんとバランスを」
「まあ、仕事どころじゃない興味深い話とか持ちかけられたら、どんな時だろうと早退するけど」
「じゃあ、今度わたしが電話して、『離婚する』って言ったら」
「即座に、『課長!有給休暇取っていいですか』って叫ぶね」
本当にそうしそうだな、と樋口晴子は頬を緩めた。
店内はそれなりに賑わっていたものの、平日の十二時台にこの程度の混雑では、経営が厳しいの
ではないか、と心配にもなるが、西側の壁の、高い位置に取り付けられたテレビが薄型の新しいも
のであったから、あれを買う程度には経営も順調なのかもしれないな、と安心する。テレビからは、
昼のニュースが流れている。全国放送の民放番組で、見知った仙台駅前の光景が映っていた。地元
の映像には、奇妙な新鮮さと気恥ずかしさがあった。垢抜けない自宅が、テレビで披露される恥ず
かしさだ。「金田首相パレードまであとわずか」とテロップが流れる。
「今日の仙台は、金田フィーバーだねえ」片肘をついた平野晶が歌うように言った。「うちの会社
の人もさ、昼休みになったら観に行ってたよ、パレード」
「厳戒態勢だよね。あちこち通行止めだし」樋口晴子は街に出てくる最中に見かけた、警備の様子
を思い出した。野球の捕手がつけるような、プロテクターを身体につけた警察官たちの胸には、
「宮城県警」の文字があった。
「今話題の新首相がやってきて、何かトラブルでもあったら、警察の偉い人たちは相当やばいだろ
うからね。必死だよ必死」平野晶は首を傾け、テレビを見やった後で、ちょうど運ばれてきた日替
わりランチの盆を受け取った。
蕎麦を食べながら、平野晶の恋人の話になった。合コンで知り合ったという三歳年下の彼は、勤
勉な会社員で童顔の男、平野晶の願いであればどんなことでも叶えようと一生懸命になる、という。
「あれはね、きっとランプの中にいたね、昔は。ランプこすられると出てきて、言いなりになる癖
がついちゃってるんだよ」
「ランプの精かあ」
「で、名前がさ、将門なんだよね。偉そうでしょ。わたしが平野だから、くっつければ、たいらの
まさかど、と読めなくもない」
「会社員って何の会社なの」
「それが面白いんだけど」平野晶が声を少し高くした。自分のボーイフレンドに、ようやく言及す
る価値を見出した、と言わんばかりだった。「セキュリティポッドって知ってる?」
「街中に置かれてる、あれ?」
「あちこちにあるよね。『スター・ウォーズ』のR2−D2みたいなやつ」
「あれって、本当に情報取れてるのかなあ」樋口晴子は首を捻る。住民の安全を守るために、と導
入されたものの、その機械がどれほどの情報を得て、警戒に役立っているのか、ぴんと来なかった。
「将門君が言うには、そんなに凄くないらしいけど」
どうせならば、しっかりとした衛星を飛ばして、上空から監視したほうがよほど正確で効率が良
い、ということのようだった。
「ただまあ、ポッドの周辺写真は撮れるみたいだし、携帯電話の通話情報をあそこでキャッチして
るらしいからね。監視社会だよ、ザッツ、監視社会」
「将門君の仕事は、その、ザッツ監視社会?」
「の掃除」
「監視社会の掃除?」
「セキュリティポッドのカメラのレンズとか、そういうのを拭いて、掃除するんだって。定期的に、
ワゴンで回って。壊れてないか、チェックして。興味深いでしょ」
「その将門君とは結婚しないわけ」
「結婚ってどう?」
「どうと言われても」
「子供って可愛い?男だっけ、女だっけ」
「娘。可愛い」樋口晴子は顔を強張らせ、端的に答えた。気を緩めると、頬が垂れ、ずるずると我
が子の可愛らしさについて喋り出してしまいそうな気がした。「で、将門君とは結婚しないわけ?」


(本文P. 6〜9より引用)


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