プロローグ
波にたゆたう筏の上に、横たわっていた。
昼なのか夜なのか、自分がどこへ向かっているのかもわからない。
その揺れが、たまらなく心地よかった。
突然大きな波が来て、海に放り出された。
木っ端のように波にもまれていると、寒気を感じた。
そこで目が醒めた。
窓が見える。外はまだ暗い。
冷たい床の上に、大の字になって横たわっていた。
静かだ。
雨はやんでいるようだ。
風もいつの間にか収まっているらしい。
起き上がろうとすると背中に激痛が走り、激しくむせた。その拍子に口から何かが飛び出
し、床を転がった。
歯だ。
両手が動かない。足も感覚がない。
それでもわずかに頭を持ち上げた。
大きな男が倒れているのが見えた。
記憶が徐々によみがえってくる。
私は部屋の隅に向かって、声をかけた。
「若林」
反応がない。
もう一度。「若林」
やはり応答はなかった。ダメか……。
少したってから「はい」と応える声がした。いまにも消え入りそうな、弱々しい声だった。
「立てるか」
物音がした。立とうとしているらしい。
「無理です……」
「銃は」
「持ってます」
「窓に向かって撃て。誰かが気づくかも知れん」
返事がなかった。
しばらくすると銃声が断続的に響き、ガラスの割れる音がした。
そこでまた、意識が遠のいた。
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