今の時代、全てを手に入れた女だけが、クールだと言われ
るんでしょう?可愛いだけじゃ、もう女はだめなんでしょ
う?どの雑誌をめくっても、仕事と恋とオシャレを三両立
した女たちが、勝ち誇ったように微笑んでる。
私だって、そんな風にクールに生きたいし、カッコイイ女
だって、言われたい。
だけど、クールな女ぶればぶるほどに、小さな嘘と借金が、
積み重なってゆく。
***
夜8時、仕事帰りの渋谷のカフェ。5つのコーヒーカップ
が置かれた丸いテーブルをはさんで真向かいに座るサヤカの
指先の、綺麗なスクエア型のフレンチスカルプを、私はぼん
やりと見つめていた。
「で?リコはどうなの?」
右隣に座っていた佳美に肩を軽くたたかれて、私はハッと
我に返る。
「ごめん、ボーっとしてた。何なに?」
「もお〜。リコ大丈夫〜?サヤカがね、かなり難関なことで
有名なネイル検定に合格したんだって118の時からずっと
ネイリストになるって言ってたサヤカが、本当に夢を実現し
てて凄いよねってみんなで言ってたとこ!」
あ。この春の限定色だ…。モスグリーンで丁寧にアイシャ
ドウされた佳美の二重瞼に一瞬注目してから正面を向くと、
喜びをこらえ切れないといったサヤカの笑顔が私に向けられ
ている。
「凄いじゃん、サヤカ! おめでとう!」
私は明るい声で、サヤカを祝福する。
「ありがと。リコはどう仕事?忙しい?」
皆の笑顔に囲まれて、いったいどんな声で、「つまんない」っ
て、答えればいいの?
「うん。忙しいけど、充実してるって感じ。今度うちの店、イ
ンポートの洋服も置くようになるらしくってさ。私、L.A.に買
い付けに連れていってもらえるかもしれないんだ」
私は、歯を見せながら笑顔をつくってそう答えた。
「へえ〜! よかったじゃん! リコはやっぱリアパレルに向
いてるってずっと思ってたよ」と、斜め右に座る大学院生の
真弓が言い、左隣に座る六本木のクラブでホステスをしてい
る華は、「いいなあ〜! L.A.! 華も行きた〜い! リコに
ついてこっかなあ」と笑って私に抱きついてきた。
「何言ってんのよ、高給取りの華が! あんた先月ハワイ行っ
てたじゃん!」
と突っ込んだのは完壁なメイクがいかにも、という感じの
化粧品メーカーのB.A.をしている佳美で、
「ていうかリコ、歯、どこでやったの?真っ白じゃん! い
くらだった?」
と付け加えた。みんなからの「本当だ〜! すごい綺麗じゃ
ん!」という歓声を浴びながら、またローン組んじゃったけ
どやっぱりやってよかった、と私は内心ホッとした。
「六本木にできた新しいティースクリニックだよ! NASAが
開発しななんとかって光を、歯に20分くらい当てるのよ。い
ちばん高いコースにしたから、3トーンも白くなった! で
もそのあと、頭痛がしちゃって大変だったんだよね。一応、
痛み止めの薬出してくれたけどさ」
「まじで?でも、そんなに白くなるなら私もやろっかな。い
くら?ちょっと見せて」
佳美に歯をイーッと見せながら、「じ、じうまん」と私がも
ごもご答えると、サヤカがその綺麗な指先にはさんだ細いタ
バコを吸ってから、「10万!? リコ〜! 大丈夫なの〜? お
金〜」と心配そうな声を出しながら、白い煙を吐いた。
「なんで〜?全然平気だよ、私だってもう24だよ? 18のこ
ろとは違うんだから! ちゃんとお金の管理くらいしてるっ
て!!」
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