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 クローバー
著者
島本理生/著
出版社
角川書店
定価
税込価格 1,365円
第一刷発行
2007/11
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ISBN 978-4-04-873817-0

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世界はうつろい、大切なものさえ変わってゆく――それでも一緒にいたいよ。ワガママで思いこみが激しい、女子力全開の華子。双子の弟で、やや人生不完全燃焼気味の理科系男子冬冶。ふたりの恋と未来は−−?キュートで痛快、やがてせつない恋愛長編。
 
クローバー 島本理生/著

本の要約

ワガママで思いこみが激しい、女子力全開の華子。双子の弟で、やや人生不完全燃焼気味の理科系男子冬冶。今日も今日とて、新しい恋に邁進せんとする華子に、いろんな意味で強力な求愛者・熊野が出現。冬冶も微妙に挙動不審な才女、雪村さんの捨て身アタックを受け…騒がしくも楽しい時は過ぎ、やがて新しい旅立ちの予感が訪れる。理想の人生なんてありえないけれど、好きなひとと手をつないで、明日も歩いてゆきたい―。『ナラタージュ』の島本理生がおくる、キュートで痛快、せつなくて愛おしい、最新恋愛長編。



オススメな本 内容抜粋

クローバー

映画のエンディングロールが流れ始めてしまうと、僕はテレビを消して、壁の時計を見上げ
た。もう華子はかれこれ小一時間くらい電話で話している。
途中、主人公の孤独な老人が偶然に知り合った少年に、自分のそばにいてくれと切望した場
面でほろっと泣きそうになった瞬間、まさに台無しのタイミングで
「だけど私だって苦労して入った大学だし、中途半端に単位を落としたりしたくないの。分か
るでしょう、大学生がみんな遊んでると思わないで」
という興ざめの一言が聞こえてしまい、僕の涙は一気にひいた。真面目に勉強している女子
大生が一時間も電話で男と別れ話などしたりするものか。
それでも映画が終わったことにつられるように、彼女の別れ話も終焉を迎えているようだっ
た。あなたは本当に良い人だったし楽しかった、かすかに甘い声でそう言ってから電話を切っ
た彼女は、次の瞬間、携帯電話を放り投げた。
「ああ、肩が凝った。冬冶、お願い。ちょっとでいいから揉んで。代わりに明日の朝食とゴミ
出しはやるから」
その言葉に僕は心底うんざりしたが、明日の授業が二限からだったことを思い出し、貴重な
睡眠のため、無言で彼女を手招きした。
華子はくるっと背をむけて絨毯の上に座り、黒いフリースのパーカに包まれた肩をこちらに
出した。その肩を揉みながら、僕はあきれて言った。
「誰が勉強したいから別れるって?」
「いやあ、あまりにしつこいから、だんだん面倒臭くなっちゃって」
「当たり前だろ。昨日まで愛想良くしてた彼女が今日いきなり別れたいって言い出したら、男
も混乱するよ」
「そんなこと言っても、好きじゃなくなっちゃったんだから仕方ないでしょう」
「すぐに冷めるぐらいなら最初からそんなに好きじゃなかったんだよ」
華子は苦笑しながら振り返ると.
「そうだ、明日って資源ゴミの日でしょう。重たくて一人だと運べないから、アパートの下ま
で持ってくのは手伝ってね。そうしたらゴミ捨て場まで運ぶのはやるからさ」
僕は肩を揉んでいた手を離して彼女の背中を蹴り飛ぽした。軽い悲鳴をあげて前のめりに手
をついた後で、華子はやや三白眼ぎみの目でにらみながら
「あんたのご飯なんか誰が作るか。一人で冷や飯でも食ってろ、この欲求不満」
一瞬、地味だとか貧相だとか葬式向けの顔といった、彼女の容姿に対する罵署雑言が頭の中
をよぎったが、どれもすべて自分にはね返ってくるだけだと思って、呑み込んだ。
この、顔だけは瓜二つだが内面は赤の他人よりも共感するところの少ない華子は、僕の双子
の姉だ。
休講でいつもより早く帰ってきた僕が靴を脱いで顔を上げると、華子は部屋のドアを開けっ
放しにして化粧をしていた。世の中の女性は全員があんなふうに、睫のためだけにマスカラを
三本も使うものなのだろうか。
僕が椅子にカバンを置いて、ヤカンを火にかけていると
「あんたも支度してね。あと二時間したら出発するから」
「え?」
思わず眉を寄せて聞き返すと、華子は真剣な横顔で鏡をのぞき込んだまま
「何人かで飲むんだけど、男の人が一人足りないから、あんたを連れていくって約束してる
の」
僕はあきれてため息をついた。
「冗談じゃない、俺は行かないよ。おまえなら男の知り合いなんてたくさんいるんだから、そ
の中の一人を連れていけばいいだろう」


(本文P. 5〜7より引用)

 

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