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 ソロモンの犬
著者
道尾秀介/著
出版社
文芸春秋
定価
税込価格 1,400円
第一刷発行
2007/08
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ISBN 978-4-16-326220-8

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友情、片思い、ときどき死――。話題の新鋭が描く青春ミステリー。
 
ソロモンの犬 道尾秀介/著

本の要約

さっきまで元気だった陽介が目の前で死んだ。愛犬はなぜ暴走したのか? 飄然たるユーモアと痛切なアイロニー。青春ミステリー傑作

『シャドウ』で本格ミステリ大賞を受賞するなど、話題作をたてつづけに刊行している新鋭の最新作は、初夏を吹き抜ける一陣の涼風のような、ぶっちぎりの青春ミステリー小説になりました。
秋内たちクラスメイト4人は、大学で教わっている椎崎鏡子助教授のひとり息子・陽介君がトラックに撥ねられる瞬間に偶然、居あわせます。幼い友人は、なぜ死んだのか? 哀しみの中、議論を重ねる彼らに衝撃の結末が……。
誰もが誰かに恋していた、せつなく甘くほろ苦い学生時代。読んでいるうちにふと「青春」してみたくなる作品。



オススメな本 内容抜粋

空も地面も、
が光っていた。
灰色だった。その灰色の境界に浮かぶようにして、赤いイタリックのアルファベット

『Welcome to riverside cafe SUN’s』

SUNというのは、息子だったか、それとも太陽だったか。どちらにしても、いまの彼があまり目
にしたくない店名ではあった。
秋内静は灰色の地面に歩を進める。
ぽつ、と頬に冷たいものが触れた。立ち止まり、空を見る。雨滴はみるみる数を増し、雨音が一気
に身体を包囲した。Tシャツが肩に張りつくのを感じながら、秋内は慌てて視線をめぐらせる。濛昧
になった景色の中に、雨をしのげそうな場所は一つしか見当たらなかった。踵を返し、たったいま通
り過ぎた赤いアルファベットに向かって秋内は走り出す。ルコックのスニーカーがばしやばしゃと地
面を鳴らし、ハーフパンツから出た両膝が交互に雨を弾いた。SUNの三文字が、視界の中心でせわ
しく上下しながら大きくなっていく。ポーチの階段を一気に駆け上がり、磨りガラスの嵌った木製の
ドアをあけーその瞬間。
秋内は思わず首をすくめた。
頭上で何かがけたたましく鳴ったのだ。
「おお、びっくりした」
声を上げたのは、店内にいた初老の男性だった。カウンターの向こう側からこちらを見ている。薄
くなった白髪頭。白い長袖のワイシャツに蝶ネクタイ、黒のベストという、いかにも喫茶店のマスタ
ー然としたいでたちだった。眼鏡の奥のしょぼついた眼が、秋内の足もとから全身をゆっくりとなぞ
り、頭を越してさらに上へと動きーそこで制止する。秋内は首を回してそちらを見上げた。ドアの
上端に設置されたカウベルが、ぐらぐらと揺れている。いまのは、どうやらあれが鳴ったらしい。
「いらっしやいませ」
カウベルの動きが止まるのを待っていたように、マスターは秋内に顔を戻した。
「すみません、大きな音させちゃって。いきなり雨がー」
奇妙な感覚に囚われ、秋内は言葉を切った。この人にはどこかで会ったことがあるーそんな気が
したのだ。しかし誰だったかは思い出せない。マスターは秋内の視線を受け止めながら、物憂い印象
の両眼を何度か瞬かせた。
「─ お一人様で?」
「え?」
「お客様は、お一人様でよろしいですか?」
「あ、はい、一人で」


(本文P. 5〜7より引用)

 

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