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 シー・ラブズ・ユー 東京バンドワゴン
著者
小路幸也/著
出版社
集英社
定価
税込価格 1,575円
第一刷発行
2007/05
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ISBN 978-4-08-775377-6

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下町で古書店を営む四世代ワケあり大家族が、古本と共に舞い込む謎を解決します。泣いて、笑って、いろんな愛に気づいたとき…きっと家に帰りたくなる、下町ラブ&ピース小説。
 

本の要約

東京バンドワゴンの仲間たちが帰ってきた。東京下町の老舗古書店「東京バンドワゴン」で繰り広げられる、涙と笑いの物語第2弾。今日も「古本」と「家族」にまつわる事件が持ち込まれる。赤ちゃんが置き去りに!? …他、春夏秋冬の感動4編を収録。



オススメな本 内容抜粋

こやこうやきぬるなもういっしょ。
ごめんなさいね、何のことかわかりませんよね。もう大昔のことですが祖母がよくそう言って
いたのを思い出しました。
なんでも、古いものは古いものと一緒にしておけ、という意味だとか。火鉢や箪笥や長持など
昔からの持ち物は古屋と渾然一体になった風情そのままでいじりなさんな、なんてことらしいで
すね。まあきちんとさえしておけばその方がいいと言うんでしょう。
わたしが住んでいますこの辺りもそういうところが多く、それはまあいい雰囲気なんですが、
とはいえ古くさいばっかりのものを自慢気に話すのも野暮というものでしょう。東京のお寺のや
たらと多い、昔ながらの町辺りとだけお伝えします。
すっかり様変わりしてしまった駅前の通りはそれはそれは賑やかな街の薫りでいっぱいですが、
道一本脇に入って行きますと狭い小路に古びた家々が軒を並べています。お互いに窓から手を伸
ばせばお隣さんにお裾分けができ、玄関から声を掛ければ向こう三軒両隣に届きます。日々賑わ
いを醸し出す小さな商店も軒下三寸まで店開きという風情。
苔むした石造りの階段では猫たちが日向ぼっこで眼を閉じ、狭い路地の板塀に吊るされた花鉢には色とりどりの花が咲き誇り、肩が触れ合うほどの距離で眼を楽しませてくれます。
そんな下町の一角で、古本屋〈東京バンドワゴン〉を営むのが我が堀田家です。
ああいけません、またご挨拶が遅れてしまいました。
わたしは堀田サチと申します。この〈東京バンドワゴン〉を営む堀田家に嫁いできまして六十
年が過ぎ去りました。
妙な名前の店とお思いですね?明治十八年にこの店を開きました堀田達吉が、親交のあった、
かの坪内迫遥先生に名付けてもらったと伝わりますが、まあ本当かどうかはわかりません。築七
十年にもなる今にも崩れ落ちそうな日本家屋をあちこち改装しまして、玄関口を真ん中にして左
側が古本屋、右側がカフェになっています。
そうそう、表看板が二つあっても煩わしかろうと、カフェの方も〈東京バンドワゴン〉で通し
ていますが、実は〈かふえあさん〉という名前があるんですよ。こちらもまた妙な名前ですが、
その由来はいずれお話しすることもあるかもしれません。
由来といえば、見えますか?古本屋の奥の壁に書かれた墨文字。あれが我が堀田家の家訓で
す。
〈文化文明に関する些事諸問題なら、如何なる事でも万事解決〉
新聞社を興して文化文明に寄与しようとしたものの、当局の弾圧で志半ばで古本屋の二代目と
なった義父草平が、世の森羅万象は書物の中にある、という持論から捻くりだしたものだそうで
すよ。他にも我が家には直筆の家訓が、貼られたポスターや棚の陰に隠れてはいますが、あちこ
ちの壁に書いてあります。
〈本は収まるところに収まる〉
〈煙草の火は一時でも目を離すべからず〉
〈食事は家族揃って賑やかに行うべし〉
〈人を立てて戸は開けて万事朗らかに行うべし〉等々。
トイレの壁には〈急がず騒がず手洗励行〉、台所の壁には〈掌に愛を〉という具合です。
こんな時代にそんな家訓云々はどうかとは思いますけど、我が家の皆は老いも若きもそれをで
きるだけ守ろうとしています。
皆さんにまたこうしてお付き合いしていただくのですから、改めて家の者を順にご紹介させて
いただきましょうか。
古本屋のいちばん奥、墨文字の書かれた壁を背に、帳場に控えて煙草を吹かしているのが、わ
たしの亭主で三代目店主の堀田勘一です。もう間もなく八十になろうとしているのですが、威勢
の良さと気の短さは相変わらずです。さすがに多少足腰に衰えは見えるものの、わたしのところ
にやって来るのはまだまだ当分先でしょうね。
その勘一の隣で古本の整理をしている若くて可愛らしいお嬢さんは、孫の青のお嫁さんのすず
みさんです。以前にお話ししたように嫁ぐ前にはいろいろとありましたがね、もうすっかり我が
家と古本屋稼業にも馴染みまして、最近は勘一を隠居させるのではないかというぐらい、看板娘
として古本屋の方を一手に引き受けています。

(本文P. 7〜9より引用)

 

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