僕の中学校はうなぎとスッポンで有名な浜名湖の北西に位置する小さな街にある。
街は全国的に有名なみかんの生産地で、街の入りロには《ようこそ!豊かな自然とや
さしい風情のみかんの郷へ》という看板が掲げられている。
でも、生まれてからずっとこの街にいる僕にしてみれば何てことはない。
ただの田舎だ。
繁華街はクルマで3分も走れば終わってしまうミニマムサイズ。
電車も一時間に一、二本しかやってこない。
カラオケボックスもなければマクドナルドもない。
クルマで40分ほど走れば、ネオンきらめく都会にたどり着けるが、変速付きの自転車し
かない中学生の僕らにとって、ここはまさに陸の孤島。今年から「町」から「市」に名前
が変わったが、市町村合併なんて{藤岡弘」に「、」を足したようなもの。本人は変わった
つもりでも周りから見れば何も変わらない。街はショボイままである。
だから街を訪れた人から豊かな自然を褒められるたびに「また、それですか〜」と、の
けぞってしまう。そもそもやさしい風情といわれても、未だ「風情」を「ふじょう」と読
む仲間もいるほどだ。
また、みかんの郷というと住民のすべてがみかん農家かと思われがちだが、それもただ
の偏見。すべてのロシア人がコサックダンスを踊れなかったり、根暗なイタリア人がいる
のと同じこと。僕の父親は平凡なサラリーマンだし、母親はホームセンターのパートタイ
マー。ごくごく普通の家庭で育った一人っ子。それが僕。
名前は平田育夫。この春中学二年生になる。
学校の名は三ケ崎中学校。全校生徒358名。
学校の自慢は広大な敷地で、グランドは野球部がフルスイングでボールをかっ飛ばす中、
サッカー部が練習できるほど広い。第ニグランド。テニスコート。体育館。武道場もある。
しかし、設備はどれもたいしたことはない。ただ広いだけ。土地が安かったと正直に言え
ば潔さも感じるが、それを自慢にすり替えようとするところが教師たちのみみっちいとこ
ろだろう。しかし街に娯楽がない僕たちは部活動に所属するしか暇をつぶす方法がない。
僕はバレーボール部に所属している。
メンバーを簡単に紹介しよう
僕(平田育夫)キャプテン 158センチ
ヤスオ(楠木靖男)僕の昔からのツレ 167センチ
岩ちゃん(岩崎耕平)部内一の長身 176センチ
杉さん(杉浦健吾)みかん農家の長男 169センチ
江ブー(江口拓)デブ 164センチ
以上。
部員が5名では試合にならないのでは?
そう思った人もいるだろう。でもご安心を。僕たちはそんなくだらないことは心配して
いない。それよりももっと心配していることがある。
女子にもてない。……ちょっと違うな。
まったく女子に相手にされない。
そうそう、カス!って、よく言われる。
キモイ!これもよく聞く。
これが悩み。ハハ、まったくまいっちゃうだろ?……はあ〜(涙)。
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