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 終末のフール
著者
伊坂幸太郎/著
出版社
集英社
定価
税込価格 1,470円
第一刷発行
2006/03
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ISBN 4-08-774803-0

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その瞬間、あなたは誰の隣にいますか?  世界が終わりを告げる前の人間像8話。
 

本の要約

あと3年で世界が終わるなら、何をしますか。 2xxx年。「8年後に小惑星が落ちてきて地球が滅亡する」と発表されて5年後。犯罪がはびこり、秩序は崩壊した混乱の中、仙台市北部の団地に住む人々は、いかにそれぞれの人生を送るのか? 傑作連作短編集。



オススメな本 内容抜粋


そろそろ行くそ、と言ってベンチから立った。ビニール袋を持ち上げる。中に入った五キログラ
ムの米が、私の肩と腰を苛めるように、重かった。
静江は名残惜しそうな顔を見せたものの、すぐに、「そうですね」と腰を上げた。
私たちのいる公園は高台だったので、沈みかけの太陽が仙台の街を照らし、じわじわと赤く滲ま
せていくのが見下ろせた。その赤さはさらに跳ね返り、空を流れていく鱗雲に映っている。静江
はもっと眺望を楽しんでいたかったのだろうが、私はとうに嫌気が差していた。
「あなた、この公園に来るのも十年ぶりくらいじゃないですか」
「どうだろうな」
二十年前、マンションに引っ越してきたばかりの時は、それこそ毎週のように訪れた記憶がある
が、最近に至っては、ここに公園があることすら忘れてしまっていた。
私たちの住む、この「ヒルズタウン」は、仙台北部の丘を造成して作られた団地で、公園は一番
見晴らしの良い場所に設けられている。いわゆる、「売り」のひとつだった。
五十メートル四方の敷地を柵で囲み、砂利を敷き詰めてある。小学生の卒業制作だというトーテ
ムポールが、入り口四ヶ所に一つずつ置かれていて、南東の一角には、滑り台であるとか、ブラン
コであるとか、子供用の遊戯器具が設置されている。中央には桜の木が植えられていた。南方の市
街地を眺める恰好で、ベンチが十個も並び、それに座って、景色を楽しむことができる。
団地ができたばかりの頃は週末ともなると、ヒルズタウンの住人たちが、ひっきりなしに公園に
やってきた。四月の上旬には、一本しかない桜の下を陣取ろうと、大勢の人間が場所を取り合い、
衝突もよく起きた。
おそらく公園からの眺めや花見のイベントも住宅ローンの一部に含まれていると思い、それで誰
もがその元を取ろうと必死だったのではないだろうか。少なくとも、私はそうだった。
その公園も今は、空いている。私たち以外には二組しかいない。犬を連れた女性と、途方に暮れ
た面持ちで肩を落としてブランコに座る中年男性、その程度だ。静江によればどちらも、同じマン
ションの住人のようで、ほらあの男の人は、テレビによく出ていたじゃないですか、とも言ったが、
私にはぴんとこなかった。
「誰だ?」
「アナウンサーよ。一年くらい前に、一度、家族でどこかへ移動したって聞いたけど、また戻って
いたのね」
「今時、どこへ行っても状況は変わらない」私は言い捨て、「さっさと行くそ」と静江を促した。
「あなた、見て」
タ食の買い物帰りだった。最近は、店で食料品の奪い合いが発生することも、往来で引ったくり
が現われることもめっきり減っていたので、静江が一人で買い物に行くのが大半だった。


(本文P. 10〜11より引用)




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