BOOKSルーエのおすすめ本 画像
 さまよう刃
著者
東野圭吾 /著
出版社
朝日新聞社
定価
税込価格 1785円
第一刷発行
2004/12
e-honからご注文 画像
ISBN4-02-257968-4
 
裁く権利は誰にあるのか? 読書は彼の行動に同意できるのか、それとも・・・・・・・・
 
さまよう刃 東野圭吾 /著

本の要約

裁く権利は誰にあるのか?不良少年たちに蹂躙され死体となった娘の復讐のために、父は仲間の一人を殺害し逃亡する。「遺族による復讐殺人」としてマスコミにもセンセーショナルに取り上げられる。世間の考えは賛否が大きく分かれ、警察内部でも父親に対する同情論が密かに持ち上がった。はたして犯人を裁く権利は遺族にあるのか?社会、マスコミそして警察まで巻き込んだ人々の心を揺さぶる復讐行の結末は・・・。



オススメな本 内容抜粋



真っ直ぐに伸びた銃身の鈍い輝きに、長峰は心の奥底が疹くのを感じた.、かつて、射撃に熱中していた頃のことを思い出したのだ。
引き金に指をかけている閲の緊張、撃った瞬間の衝撃、的に当たった時の快感、いずれも鮮やかな記憶として全身に焼き付いている。
長峰が見ているのはカタログの写真だった。
以前に銃を購入したことのある店が、何年かに一度、新製品を紹介するカタログを送ってくるのだった。
写真の下には、「銃床は半艶仕上げ、イタリア製ガンケース付き」とある。
さらに価格に目をやり、彼はため息をついた。
九十五万円は道楽に費やせる金額ではなかった。
それに、そもそも彼は現在射撃をやめている。
ドライアイを患い、競技に支障をきたすようになったからだ。
病気の原因は明らかにディスプレイの見過ぎだった。
彼は半導体メーカーで、長年ICの設計に携わってきた。
彼はカタログを閉じ、眼鏡を外した。ドライアイが治った時には加齢視、いわゆる老眼が始まっていた。
今では細かい文字を読むのに眼鏡は欠かせない。
娘の絵摩は彼が眼鏡を探すたびに、「おやじい」と悪口をいう。
老眼でも射撃はできるだろうが、もう目を酷使することは避けたいというのが本音でもあった。
銃の 写真を見ると心が騒ぐが、懐かしさが蘇っているだけともいえた。
大切に使っていた銃も、この一年は手入れさえしていない。
今ではリビングボード上の単なるインテリアと化している。
壁の時計はヒ時を過ぎたところだった。
彼はテレビのリモコンを手にした。
スイッチを押そうとした時、窓の外で歓声が上がった。
彼はソファから立ち上がり、庭に面したガラス戸のカーテンを開けた。
植え込みの外に家族らしき数人の人影があった。
彼等の歓声の原因はすぐにわかった。
遠くの空に花火が上がっていた。
地元の花火大会が行われているのだ。
都会とは違い、このあたりには高い建物が少ないから、かなり離れているにも拘わらず、長峰の家からでも見通せるのだった。
ここから見えるんだから何もわざわざ人混みの中に行かなくてもと思うが、しかしそれではあの年頃の娘たちは納得しないのだろうな、と理解もしている、目的は花火ではなく、仲間たちときゃあきゃあ騒ぐことにあるのだ。
しかもそれは賑やかな場所で、という条件が必要だ。今頃は焼きトウモロコシかアイスクリームを手にし、彼女たちにしか通じない言葉で、彼女たちにしか理解できない話題を交わし、盛り上がっていることだろう。
絵摩は今年、高校生になった。
長峰の目には、他の平凡な少女たちと変わることなく、健全に明るく育ってくれたように見えている。母親を亡くしたのは十歳の時で、その時には熱を出すほど落ち込んだが、よくぞ立ち直ってくれたと心の底から感謝していた。
今では、「パパ、いい人がいたら再婚しなよ」と茶化してくるほどだ。もちろんそれが本心からの言葉とは思えない。本当に再婚話が持ち上がれば、強い抵抗感を示すことはト分に予想できた。しかしとりあえず、彼女なりに母親の死を乗り越えていることはたしかなようだった。その娘は今、学校の友人たちと花火を見に行っている。そのために長峰は浴衣を買わされたのだ。もっとも自分ではうまく着られないので、友人の母親に着せてもらうようなことをいっていた。
娘の浴衣姿を見たかった長峰は、「写真を撮ってこいよ」といったが、絵摩がそのことを覚えているかどうかは甚だ怪しかった。楽しいことに夢中になると、ほかのことは一切忘れてしまう悪癖が彼女にはあった。
彼女はカメラ付き携帯電話を持っているが、そこに写っているのは友人の姿ばかり、ということは大いに予想できた。
携帯電話は彼女が小学生の時から持たせている。
何かあったらいつでも電話するように、といって手渡したのだ。
母親のいない彼女にとって携帯電話は唯一の防壁であり、長峰が安心して仕事に出られる根拠でもあった。
花火大会は九時までと聞いている。
終わったらさっさと帰るんだぞ、と絵摩にはいって聞かせた。
少しでも遅くなるようなら電話をしなさい、ともいってあった。長峰の家から最寄りの駅までは徒歩で十分ほどだ。
民家は建ち並んでいるが、夜更けになると人気は全くなくなる。
街灯の数も多くない。
時計の針を見て、長峰は一人苦笑した。今はまだ父親の言葉など頭の隅にもないに違いなかった。
旧式のグロリアは片側一車線の狭い県道を走っていた。街灯は少なく、見通しの悪いカーブでは、はみ出た電柱が気になった。
助手席でアツヤが舌打ちをした。
「なんだよ、これ。女どころか人なんて誰も歩いてねえじゃんかよ。
こんなところをうろうろしてたってしょうがねえぜ。場所、変えよう」
「どこ行くんだよ」片手でハンドルを操作しながら中井誠は訊いた。
「どこだっていいよ。人のいるところだ。こんな旧舎道走ってたってしょうがねえだろ」
「そんなこといったって、ふつうの道に入ったら、今夜は花火でどこも渋滞してるだろ。だからこっちまで来たんじゃないか」

(本文P. 3〜4より引用)



▼この本の感想はこちらへどうぞ。 <BLANKでご覧になれます

e-honからご注文 画像
BOOKSルーエ TOPへリンク


このページの画像、引用は出版社、または著者のご了解を得ています.

当サイトが引用している著作物に対する著作権は、その製(創)作者・出版社に帰属します。
無断でコピー、転写、リンク等、一切をお断りします。

Copyright (C) 2001 books ruhe. All rights reserved.