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 セックスボランティア
著者
河合香織/著
出版社
新潮社
定価
税込価格 1575円
第一刷発行
2004/06
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ISBN 4-10-469001-5
 
障害者だってやっぱり、恋愛したい。性欲もある。その思いを満たすための「性の介助」の現実とは?彼らの愛と性に迫るノンフィクションの意欲作。
 
セックスボランティア 河合香織/著

本の要約

序章 画面の向こう側;第1章 命がけでセックスしている―酸素ボンベを外すとき;第2章 十五分だけの恋人―「性の介助者」募集;第3章 障害者専門風俗店―聴力を失った女子大生の選択;第4章 王子様はホスト―女性障害者の性;第5章 寝ているのは誰か―知的障害者をとりまく環境;第6章 鳴り止まない電話―オランダ「SAR」の取り組み;第7章 満たされぬ思い―市役所のセックス助成;第8章 パートナーの夢―その先にあるもの;終章 偏見と美談の間で



オススメな本 内容抜粋

入り口は一本のビデオテープだった。
プライバシーへの配慮から、数本しかダビングされなかったものだ。
現在も極めて限られた人たちだけが所有している。
今後もこの数が増えることはないだろう。
当時、私は障害者の性について本腰を入れて取材を始めたばかりだった。
手探り状態のまま、神奈川県川崎市に住む三十二歳の障害者の男性の家を取材で訪れた。
彼は駅からバスで二十分ほどかかる市営住宅の一階でひとり暮らしをしていた。
障害者の性をどう考えるかについて話を聞くうちに、「おもしろいものがあるから」と笑みを浮かべ、電動車いすで移動して、不自由な手でビデオテープをセットした。
その部屋には私たちふたりだけで、外では静かに雨が降り出していた。
ビデオといっても音はない。
殺伐とした施設の廊下をカメラはゆらゆらと動いていき、ある部屋に入っていく。チェックのパッチワーク模様のカーテンが吊るされている。
アルミのやかんの横には湯沸しポットが置かれ、 壁には不釣合いなほど明るいミッキーマウスのカレンダーが貼られている。
そして、車いすの後ろに酸素ボンベを二本設置された老人の姿が映し出される。ボンベはチューブで喉へつながれている。
終始モノクロ画像だ。
白い背景に静かに文字が浮かび上がった。

─竹田芳蔵
─六十九歳
─身体障害程度一級
─日本国有鉄道旅客運賃減額第ー種
─*脳性麻痺による*両上肢機能障害者(日常生活動作不能)
*移動機能障害(歩行不能)
─気管切開により酸素吸入器常時使用及び言語障害
老人は話ができないらしく、本人の語りもテロップで流れるようになっている。彼は自らの性について語り始めた。
〈毛がはえ始めた頃からだったと思う。性を意識し始めたのは〉
〈一生童貞で終わりたくなかったから風俗へ行ったんだ〉
雛が深く刻み込まれた顔をくしゃくしゃにして、目を細めて笑う姿は子どものように無邪気に見える。そんな彼が吉原(東京都台東区千束)のソープランドヘ行き、
〈まず男まるだしでやる気を見せるね〉
〈始まってすぐおっぱいを触りながら舐めるんだ〉
〈指もすぐに入れるよ。これが僕のこつだね〉
〈腰を動かせないから騎乗位で女の子に動かしてもらうんだ〉
〈五分くらいでいっちゃった。でも二時間で三回いったよ〉
などと語る。
生々しい告白を聞きながらも、私には現実感がわいてこない。白黒画像で無声だからということもあるが、重度の障害者で高齢者の彼が、それほどまでに性に執着があることが実感できなかったのだ。
もちろん、何歳になろうが、障害者だろうが、性欲があることはわかっているつもりだった。
しかし、障害者があからさまに性を語る場面に遭遇したのは、私にとってそれがはじめての経験であった。
画像が静止され、老人のモノローグとなる。
〈僕が一番リラックスできる時間はアダルトビデオを見てるときだね〉
〈一本五千円で一カ月にだいたい五本くらい買うね〉
会昨年前までは左手が動いていたからオナニーはできたんだ〉
〈でももう左手が伸びなくなってしまって自分ではできないんだ〉

 

(本文P. 9〜11より引用)


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