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 ぬけぬけと男でいよう
著者
内田春菊/著
出版社
角川書店
定価
税込価格 1365円
第一刷発行
2004/08
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ISBN 4-04-873548-9
 
不安定な家庭生活と、恋愛、セックスの不条理を鮮やかに切り取った意欲作!
 
ぬけぬけと男でいよう

本の要約

浮気を知っても別れようとはせず、僕をなじりつづける妻。離れたいのについ深くなる恋人・萌美。新しく結ばれた優しい摩夕。そして何よりも大切な娘。女たちの間を彷徨う僕は、なぜみんなが好きにさせてくれないのかわからない・・・。不安定な日常と家庭生活、恋愛、性の不条理を鮮やかに切り取り、現代の男女をリアルに描いた意欲作!結局男は短い寿命でも幸せに死ねるように出来ているんだよ。



オススメな本 内容抜粋


もしも出来るなら、「不倫」という言葉を作ったやつに文句を言いたい。「浮気」もだけど、「不倫」はもっとひどいんじゃないだろうか。
女はよく、
「そんなのは男の作った言葉よね」
なんて言い方をするが、不倫だけは、絶対女が作った言葉だと思う。
萌実が、
「どうして別れなきゃいけないの?」
と涙を零し始めたとき、僕はぽんやりそんなことを考えていた。
僕は今まで、萌実の恋人として悪くない状態を保ってきたと思う。
職業柄ふだんから日曜も祭日もないから、逆に週末ごとに彼女を泣かせるなんてこともなかった。
そんなお決まりな事、させてたまるものかと思ってた。
年末やお互いの誕生日なども、出来る限り一緒に過ごせるようにしていたつもりだ。
聞かれれば少しは答えてきたが、自分から妻子の話なんてしたことはない。
妻のことを悪く言って愛人の歓心を買うような男は僕は嫌いだから。
愛人。
思わず今愛人と言ってしまったが、便宜上世間一般の言い方になってしまっただけで、ほんとは萌実のことを愛人だなんて思っていない。じゃあ何か。ただ、タイミングを誤って出来てしまった恋人なのだ。
結婚する前に出逢っていても、僕らはきっと同じように愛し合ったと思う。
萌実の昔の彼だって、僕が別れろと言ったわけではない。
僕はなるべく寛容でいようとつとめた。
だって僕の弱みはもう一人相手がいることだけなんだから、萌実の彼のこと、うるさく言う筋合いはないのだ。僕は耐えた。
彼女がとうとう、
「いいの私。もう、十布さんだけで……」
って言い出したときは、勝ったと思った。
敵の方は僕の存在について黙っていられなかったらしい。
もっとも、
「十布さんだけで」じゃなくて、
「十布さんだけがいいの(それも『もう』はつかない)」
だったらもっと嬉しかったのだが、そこまでは贅沢かなと思って彼女には言わなかった。
萌実はとにかく僕の方を選んでくれたのだ。
なのに、こんなことになってしまった。
僕から別れを言い出すなんてことは絶対ないと思ってたのに。
つきあいが永くなっていくことに不安はあったが、ずっとこのままでいてもかまわないと思った。
僕だけのために老いていく萌実を枯れた目で見つめる甘い老後もいいものだ。
しかし、ある日突然、
「あたし、結婚することになったの」
と萌実が泣きながら告白する、その場面の方をさらに多く想像していた。
僕にとってそれは大変に恐ろしい想像だったが、恐ろしくても考えておかなければならないと思った。
その図の中の萌実はまだ幼い僕の娘橘香と重なった。
そうとも、僕はそれを覚悟しなければならない。その時が来たら、僕は取り乱してはいけないのだ。たとえ自分が知っている男と結婚することになっても、なこうどを引き受けるくらいの……いや、そこまではやり過ぎかもしれない。
僕はただ、静かに「今出来る愛の場面」を積み重ねて行きたいだけなのだ。
スタンドプレーは要らない。普通に二人で過ごしたい。
だけどそれも今日で終わりなのか本当に?

(本文P. 3〜5より引用)


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