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 ゲド戦記外伝
著者
ル=グウィン/作 清水真砂子/訳
出版社
岩波書店
定価
税込価格 2310円
第一刷発行
2004/05
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ISBN 4-00-115572-9
 
アースシー世界を重層的に描く、5つの物語―「カワウソ」「ダークローズとダイヤモンド」「地の骨」「湿原で」「トンボ」。巻末に、ル=グウィン自身による詳しい「アースシー解説」。
 

本の要約

五つの物語(「カワウソ」「ダークローズとダイヤモンド」「地の骨」「湿原で」「トンボ」)と作者による詳しい解説を収める。ファン必見。



オススメな本 内容抜粋

「ゲド戦記」の四巻目、『帰還』の最後で、物語は私がああ、「現在」だ、と感じる地点に達していた。
だが、いわゆる現実の世界の現在と同じで、次はどうなるのか、私にはわからなかった。
もちろんその先に起こりうることを推測したり、予言したり、心配したり、期待したりすることは、しようと思えばできなかったわけではない。
だが、私にはとにかくわからなかった。
テハヌーの物語を続けることができず(なぜなら、まだ起こっていなかったのだ)、ゲドとテナlの物語は「そのあとふたりはいつまでもしあわせに暮らしました」の段階に到達したと愚かにも思いこんで、私はこの本に、「ゲド戦記最後の書」と副題をつけた。
なんと愚かな作家だろう。
「現在」は動くのだ。物語のなかを流れる時間でも、夢のなかを流れる時間でも、昔話のなかを流れる時間でも、「現在」は「その時」ではない。
『帰還』が出版されて七、八年たった頃、私はアースシーを舞台にした物語をまた書かないかと言われた。
ちょっとのぞいてみると、私が見ていなかった間に、アースシーではいろいろなことが起きていた。
もどっていって、「現在」何が起きているのか、見きわめなくては、と私は思った。
それに、昔、つまりゲドやテナーが生まれる前に起こったいろいろなことも知りたくなった。アースシーのこと、魔法使いのこと、ローク島や竜たちのこと、知りたいことが次つぎと出てきた。
今現在のことを理解するためには、歴史も勉強しなければならない。
私は多島海の古文書館にしばらくこもる必要があった。
実在しない歴史をさぐるには、物語っていって、何が起こるか、見きわめるしかない。
これは、いわゆる現実の世界の歴史家がすることと、たいしてちがわないのではないかと思う。何かある歴史的な出来事に立ち会っていても、それを物語として語ることができるようになるまでは、私たちはそれを把握することはもちろん、記憶することすら、できないのではあるまいか。
私たち自身の経験の外にある時や場所での出来事は、ほかの人が伝えてくれる話に頼るしかない。過去の出来事は、結局は想像力の一つの形態である記憶のなかにしか存在しない。
出来事はなまなましく「現在」なのだが、いったん「その時」のことを語ることになっても、なお現実感覚が保てるかどうかはもっぽらこちらに、つまり私たちの力と対象ヘの誠実さに、かかっている。
もし出来事が記憶からぬけ落ちてしまったら、そのかすかなおもかげを多少とも取りもどせるのは、想像力しかない。
もし私たちが過去について嘘をつき、こちらが語らせたいように物語をして語らせしめ、こちらが意味させたいように意味を持たせたら、過去はリアリティを失い、にせものになってしまう。
神話と歴史のごちゃまぜになったかばんに過去を入れて、時をくぐりぬけて運んでくるのはたいへんな仕事である。
だが、老子も言っているように、知恵ある人びとは重い荷車を従えて旅をする。
まったく実在したことのない、つまり一から十まで完全に虚構の世界を構築、あるいは再構築するときは、そのための調査研究は実在の世界のそれとは順序がいくぶんかちがう。けれど根底にある衝動や基本的な技
法に大差はない。
まず、どんなことが起こるか見る。そして、なぜ起こるのか、考える。その世界の住人がこちらにむかって話すことに耳をかたむけ、彼らが何をするか、観察する。次にそれについて真剣に考え、誠実にそれを語ろうと努める。
そうすれば物語はちゃんと重力を持ち、読む者を納得させるものになっていく。
この本に収められた五つの物語は、「ゲド戦記」第一巻から第四巻までに確立された世界を探索し、広げていっている。それぞれの話は独立しているが、四冊を読む前より、読んだあとに読まれるほうがいいと思う。
「カワウソ」は「ゲド戦記」の始まる三百年ほど前の、不安に満ちた暗黒時代の物語で、アーキペラゴのいくつかの慣習や制度がどのようにして成り立ったかに光があてられている。「地の骨」は最初にゲドを教えた魔法使いを教えた魔法使いの物語で、これを読むと地震を止めるのは大魔法使いといえどもひとりでは無理だとわかる。
「ダークローズとダイヤモンド」は、アースシーのここ二百年なら、いつでも起こりえた話である。
いや、結局のところラブ・ストーリ!はいつでも、どこでも起こりうる。
「湿原で」は、ゲドがアースシーの大賢人だった短くも波乱に富んだ六年間のエピソードのひとつを物語ったものである。
そしてだいかんきかんはしわた最後の「トンボ」は第四巻『帰還』の数年後の話で、『帰還』と第五巻『アースシーの風』の橋渡しをするもの。.青ってみれば、竜の橋である。〔『ゲド戦記外伝』の原書は、第五巻の「訳者あとがき」に記したように『アースシーの風』より早くまとめられ、出版されている─訳者注〕


(本文 まえがき  より引用)


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