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 特調部 行方不明者捜しのプロフェッショナル集団
著者
脇山太介/著
出版社
アイ・アイ・サービス
定価
税込価格 1300円
第一刷発行
2004/03
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ISBN 4-594-04533-2
 
悲しみ、嘆き、怒り、涙、笑顔、そして愛。 捜す側、捜される側、そして依頼人、れぞれの人間ドラマを描いた感動の短編集。
 

本の要約

それは行方不明者捜しのプロ集団。時を忘れ、場所を選ばず、高度な検索テクニックを駆使し、行方不明者を捜し出す・・・。捜す側、捜される側、そして依頼人、それぞれの人間ドラマを描いた感動の短編集。彼らの行く手には数々の感情が生れては消える。それが「特調部」捜査員たちが歩み続ける、果てしない道なのだ!



オススメな本 内容抜粋

休日の名古屋駅周辺。十二月になったばかりだというのに、街は赤とグリーンとゴールドのきらびやかなクリスマス用のディスプレイに彩られていた。
日頃から、遊びに来た中高校生やショッピングを楽しむ若い女性など、たくさんの人でごつた返す場所だが、この時期は幸福のべールに包まれたようなカップルが多く目に付く。
ひと際買い物客を集めているTデパートの十階、宝飾品売場にはこれもまた濃厚な幸せムードが垣問見られる。
何組ものカップルが、ショーケースに吸い寄せられるかのように品定めを繰り返す。
依頼者もその中の一人だった。
「プレゼントでございますか?」
品のいい声で店員が尋ねてきた。
「ああ。ええ」
男は一旦、あいまいな返事をしたが、あらためて、
「結婚指輪なんですが」
と切り出した。
「そうですか。それはおめでとうございます」
店員がにっこり微笑みかけると男の連れは、はにかむような美しい笑顔を見せた。
男は落合俊之、三十六歳。美しい笑顔の女は池田聡子、二十九歳。
もうすぐ一年になる交際を経て年内には籍を入れ、家族として新年を迎える予定になっていた。
「どのようなものをお探しですか。小さなダイヤが入ったものなども、最近は人気があるようですよ」
店員に話しかけられる度に聡子は俊之の顔に視線を移し、なにかを問いかけるような初々しい表情を見せる。
二時間後、二人の姿は一階のカフェにあった。
「なんだか、たくさん見ると余計迷っちゃうね。なかなか決められない」
聡子はシナモンでカプチーノの表面をなでながら話している。
「納得がいくまで、いくらでも付き合うよ。聡子が気に入るものが見つかるまで」
優しく話す俊之のこんな言葉に、聡子は満たされているという実感を噛みしめる。
「でも、いくらなんでも式までには買っておかないとね」
そう言って、改めて俊之の顔を覗き込む。結婚式の話になると、俊之は決まって口数が減る。
「俊之さんがいいって言うから結納も披露宴も控えめにしたけど、式に指輪ぐらいは用意しておかないと」
男は黙って数回、頷いた。
結婚準備の話が進む中、聡子の携帯電話が鳴った。
「ちょっと、ごめんね」
静かな店内で話すのは気が引けるので、聡子は携帯を持って店の出入口へ向かう。聡子は電話を終えるとすぐに席へ戻ってきた。
「母からだった。ちょうど近くで買い物してるから、ここに寄るって」
「ここへ?」
俊之はいささか驚いた様子だ。
「なにか、用事でもあるの」
「そういうわけじゃないけど、せっかく近くに来てるんだし」
「そう。そうだね。結納の日以来、お母さんには会っていないし。それじゃあ、挨拶くらいさせてもらって俺は席をはずそうか。母娘、二人でゆっくりするのもいいんじゃないの」
今度は、聡子が少しだけ慌てて、
「ダメよ、それじゃ。意味がないもん」
「意味って、どんな意味」
「あっ、ううん」
俊之はもともと聡子の両親に会うのが苦手だ。さらに今の聡子の言葉に嫌な予感を感じていた。まもなく、買い物袋を両手に提げた聡子の母、美智子が店の入口に現れた。
店内を見回して二人を探している様子に、聡子が手を上げて合図する。
「ああ、いたいた。落合さん、こんにちは。ごめんなさいね。お邪魔して」
そう言うと、聡子の隣に腰かけた。
「ああ、どうも。今日は、お買い物ですか」
「いろいろと、見とったがねえ。それはそうと、どう?指輪はいいの見つかったの」
「それがねえ」
母と娘の仲の良い会話が始まった。
俊之は会話の外で、楽しげな母娘を眺めながら全く別のことを考えていた。
再び、美智子が俊之に話しかけた時も、話は耳に届いていなかった。
「えっ、ああ、すいません。考え事をしていて。なんでしょうか」
「聞こえとらんの。あのねえ、落合さんは二回目の結婚式だで、控えめにしたいっていう気持
ちもわきゃるんだけど、聡子にとってみたら初めてじゃない。親としてはちゃんとした披露宴
をやってあげたいのよ。お父さんも一度は認めてくれたけど、やっぱり良くは思っていないで
ね。身内だけのお食事会で済ますなんて。落合さんはよそから移ってこりゃあしたから大袈裟
に思うかもしれんけど、名古屋では当たり前だなも。娘の結婚に多少のお金をかけることは」
落合のにこやかな表情が一瞬にして硬くなった。
「その話は、ご承知いただいた上でー」
すっかり重くなってしまった空気をはぐらかすために、聡子が明るい声で切り出した。
「もうやめましょ。ねえ、お母さん。俊之さん、今日はうちで夕飯食べていかない?お母さん
が、なんだかたくさんおいしいもの買い込んだらしいのよ。ねえ」
「いや、今夜は用があるんだ」
「ええ!そんなの聞いてない。いつも通り一緒に夕飯食べられると思っていたのに。別にうち
じゃなくてもいいのよ。外で、二人で食べに行きましょう」
「いや、今日はダメなんだ。そろそろ、行くよ。たまには休日を母娘でゆっくり過ごしなよ。
それじゃ。失礼します」
「あっ!待って」
呼び止める聡子を置いて、俊之はそそくさと店を出て行ってしまった。
「落合さん、気を悪うしたかしら。二回目の結婚だからなんて言ったもんで」
美智子も心配そうに落合の後姿を見ていた。

(本文P. 11〜15より引用)


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