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 野ばら
著者
林真理子/著
出版社
文芸春秋
定価
税込価格 1600円
第一刷発行
2004/03
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ISBN 4-16-322700-8
 
宝塚の娘役の千花とフリーライターの萌。華やかな世界に生きる若く美しい親友同士は、それぞれ思い通りにならない恋に悩んでいた
 

本の要約

この春一番の華やかな恋愛小説― 私たちって、ずうっと幸せなまま生きていける気がしない?宝塚の娘役の千花とフリーライターの萌。華やかな世界に生きる若く美しい親友同士は、それぞれ思いどおりにならない恋になやんでいた― 歌舞伎に宝塚、ワインと美食、ブランドや着物などとりどりのファッション、六本木ヒルズで行なわれる業界パーティー・・・まさに林真理子さんにしか描けない華麗な世界!

宝塚の娘役の千花と雑誌記者の萌は、同じ名門女子校出身の親友同士。若く美しい二人はどこでも注目の的で、華やかな日々が過ぎてゆきます。「私たちって、ずうっと幸せなままで生きていける気がしない?」と錯覚するほどに。しかし千花は我儘(わがまま)な歌舞伎役者との恋に翻弄され、萌は評論家との不倫に悩み……。歌舞伎に宝塚、ファッション、美食、業界パーティ等、まさに林真理子さんにしか描けない華麗な世界が「週刊文春」連載時から話題を呼んだ『野ばら』をどうぞお楽しみに。



オススメな本 内容抜粋

半蔵門のダイヤモンドホテルといえば、古くて地味なホテル、といった印象であったのだが、しばらく来ない間にリニューアルしていたらしい。
いたるところに金をかけ、都会の洗練された隠れ家のようになった。
コーヒーハウスも大層賛沢なつくりになり、インテリアも凝っている。
高いけれども紅茶も大層おいしい。
新井萌は紅茶党であったが、外でおいしい紅茶を飲むことをほぼあきらめていた。
カフェや喫茶店はもちろん、どこのホテルのコーヒーラウンジもコーヒーと比べて紅茶はおざなりになっている。
千円近くとるラウンジで、ポットにティーバッグを放り込んで平気で持ってくるのだ。
けれどもここの紅茶はいい葉を選び、丁寧に滝れてある。
紅茶がこんなにおいしいのならばケーキもきっとかなりの水準のはずだけれども、少々苛立っている萌は、とても注文する気にはなれない。
連れがまだやってこないのだ。
七時からの英国大使館でのコレクションに間に合わせるため、六時四十分には必ず来て、と頼んでいたのであるが干花はまだやってこない。
今日は昼の公演だけだから、六時四十分には必ず行く、と昨日の電話で言ったばかりである。
いったいどうしたのだろうかと萌はホテルの玄関から目が離せない。
もし千花がやってきたら瞬時にわかるはずであった。
途方もなく美しい女というのは、人々の目をひきつけるだけではなく、あたりの空気を全く変えてしまう。
千花によってそんな現場を何度見たことだろうか。
千花は宝塚の娘役をしている。役柄のために髪を明るい色に染め、たっぷりとカールをつけているのであるが、この人形のような髪形が色自の千花にはよく似合った。その透きとおるような肌に、長い瞳毛がいつも影をつくっている。
大きな目にやや下がり目の眉が、はかなげな甘さをかもし出している。
萌は近頃の千花を見ていると、いつもピンク色の砂糖菓子を思うのである。
宝塚に入ってからその食紅の加減はますます濃くなったような気がする。
萌と千花は、小学校からの同級生である。
両方の母親に言わせると、その前の幼児教室の時から一緒だったという。
有名小学校への合格率を誇る幼児教室では、積み木、お絵描き、リトミックダンス、入試が近づくと面接のテクニックを教えてくれた。
ひとクラスニ十人ほどの英才教育であったから、千花のことを憶えていなくてはおかしいのであるが、なぜか萌の中から千花のことはすっぽり抜けているのだ。
「そりゃそうよ。私は優等生だったけど、萌は休んでばかりの落ちこぽれだったもの」と干花はからかう。
萌は母の桂子の出身校である、カトリックの女子校に進学したが、千花も同じクラスになった。
その女子校しか受験しなかった萌と違い、千花の第一志望は慶応幼稚舎であったと後に聞いた。
幼稚舎に向ける千花の母の情熱は凄まじいものがあり、娘が歩き始めたのを待って幼児教室に送り込んだのである。
けれども千花は「補欠二番」という通知を貰った。
「あの時のママってすごかったわ。本当に自殺しかねないぐらいだったのよ。それが収まると、二人の合格した子がどうか交通事故に遭いますように……なんて考え始めて、そんな自分にぞっとしたんですって。ママがどうにか冷静になるのは、私の入学式が終わってからよ。これでもう仕方ないって思ったんじゃないの」
幼児教室で優等生だった千花は、小学校でやや力尽きた感じとなり、中学校で完全にぺースを崩した。
この頃からめきめき美しくなった千花を、まわりの男の子たちがほうっておくはずはなかったのだ。
萌と千花が通うカトリックの女子校は、良家の子女が多いのと厳しいことで有名であったが、近隣の男子校生との交際にはかなり寛容である。
といっても両隣の名門校に限られるものの、千花はたちまち彼らのアイドルとなった。
やがてボーイフレンドが出来、渋谷で遊び始める。千花の属するグループは、校内でも一、二を争う華やかな遊び人の集まりであった。
千花は別格として、どの少女も大人びて美しかった。
それとは正反対に、萌は勉強好きで真面目なグループのリーダー格となっていた。
たいていの生徒が小学校からエスカレータ式に大学へと進む中にあって、秘かに外部受験を狙うこのグループは特異な集団であった。
何もあんなに勉強しなくてもと、少々煙ったがられているところがある。
幼なじみといっても、交わることのなかった萌と千花だったが、ある出来事が二人を結びつけた。
高校二年生の時に初めて見た宝塚に心奪われ、千花は音楽学校への入学を夢見るようになる。
が、それはとっぴなことであった。
入学のためには高校を中退しなくてはならない。
親の反対もあるであろう……。
初めて人生について悩み、葛藤ということを始めた千花にとって、今までの友人はもの足りなかった。

(本文P. 3〜5より引用)


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