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 帰ってきたアルバイト探偵(アイ)
著者
大沢在昌/著
出版社
講談社
定価
本体価格 1500円+税
第一刷発行
2004/02
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ISBN 4-06-212290-1
 
ノリも正義感も、女好きもそのままに、「あの親子」が帰ってきた!
 

本の要約

「新宿鮫」「佐久間公」とならぶ大人気シリーズ、完全復活!
白骨死体で発見された武器商人・モーリス。その「恐怖の土産」を目当てに、危ないテロ集団が続々やってきた!高校生探偵・リュウと不良中年オヤジは、美女と東京を救えるか?



オススメな本 内容抜粋

渋谷の街はいつも通りの人混みだった。
歩いている人間の三十パーセントは学生で、九十パーセントは”貧乏人”、六十パーセントの頭の中には、「今夜いい女(男)とやる」ことしか詰まってない。
宇田川町の、ポリボックスを境にふたまたに分かれる登り坂に僕は立っていた。
渋谷にはふたまたの道がやたら多い。
道玄坂と宇田川町は特にふたまただらけだ。
恋人をふたまたかける者、学生とアルバイトのふたまたをかける者、力タギと犯罪者のふたまたをかける者、そんな人間ばかりが集まってくる。
でも、人生の登り坂と下り坂をふたまたかけられる者はいない。
僕が立っていたのは、道こそ登り坂だったものの、あきらかにまちがいなく、人生の下り坂を進む奴が通る方の道だった。
時刻は午後七時、月曜日。コヨミの上では秋だけど、夕方の渋谷にはいつだって夏しかない。
今また、人生の下り坂を転げ落ちようかというアホがひとり、僕に近づいてくる。
目印である、僕のヤンキースのキャツプをめざして。
そいつは色つきの眼鏡をかけ、妙に暑苦しい格好をした高校生だった。フード付の厚手のパーカを着るには、季節が早すぎる。
でもそのフードが必要だったこともわかっている。
ショップの防犯カメラから顔を守るためだ。
だぶだぶのパーカの腹の中には、おそらく近所のレンタルビデオショップでビデオを借りたときにいっしょについてきたナイロン製の袋が入っている。
でもその袋の中身は、そいつが好きなホラービデオでもAVソフトでもない。
眼鏡の奥の目は妙にふてぶてしく、ナメンナヨという強気の視線を発している。
いいのかね、高校生がこういうビジネスの交渉にばかり長けている、今の日本て。
そいつは僕に近づいてくるとさりげなくあたりを見回した。
「やあ」
僕は初対面なのに、てんで仲良しのふり。
近くのビルの軒下にそいつを誘導し、もっていたショルダーバッグの口を開いた。服の中からでてきたナイロン袋の中身を、そいつはばさばさとバッグの中に落としこんだ。
あまりまっとうとはいえないバイトに精をだすリュウ君。
「何本?」
「ゲームが四本、DVDが六本」
そいつがつぶやいた。僕はバッグの底でタイトルを確認した。
「どれも新作だよ」
怒ったようにそいつがいった。
「はいはい」
ポケットから1万円札をだした。そいつは万札をさっとパーカのポケットにつっこみ、いった。
「おたくより条件のいいとこが最近できたんだぜ。一本千二百円だしてくれるんだ。『社長』にいっとけよ。勉強しないと潰されるよって」
あくまで強気。
「そりやどうも」
僕がいうと、そいつは肩をそびやかし、歩き去っていった。
僕はため息をつき、バッグを肩にかけ直した。
坂を登って、右に折れ、小さな雑居ビルの前にでる。
月単位で部屋を貸す、レンタルオフィスに、今の僕のバイト先がある。
ドアには「(株)未来開発」なんてプレートが掲げられているけれど、実際は架空の会社だ。
ドア横のインターホンを押し、
「冴木です」
と告げると、中からロックが外された。
オフィスの中は、ハ畳ほどのワンルームで、デスクがひとつ、安物の応接セットが二組おかれている。
そのひと組で今、「社長」が二人の女子高生を相手に、ビジネストークのまっ盛りだった。

(本文P. 3〜5より引用)


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