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 ほつれとむすぼれ
著者
田口 ランディ 著
出版社
角川書店
定価
本体価格 1400円+税
第一刷発行
2004/02
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ISBN 4-04-873525-X
 
それでも空は青い・・・時代の果てにかけそき希望を見出す
 

本の要約

歯が抜ける夢、労働を拒否して死んだ兄、きぐるみを着た人間たち、顔というマンダラ・・・世界の断片の中からここに生きるあなたに向けた、たましいがぎゅうっと抱きしめられるスピリチュアル・エッセイ集。生きとしいけるのものはつながっている・・・。



オススメな本 内容抜粋

それでも空は青い

突然、イラク政府が消えた。
なんて不思議な戦争なんだろうと思った。
いったい、イラク政府の要人たちはどこへ行ってしまったんだろう。
飛行場の封鎖もなく、道路の封鎖もなく、長期化するかと思われた戦争が、たった三週間で終結するかのごとく報じられている。
私は京都のホテルで、「バグダッド陥落」というニュース映像を観ていた。
京都はいままさに桜が満開で、私は桜見物に京都に来たのだ。
そして、祇園で飲んでいい気分でホテルに戻ってテレビをつけたら、イラク政府が消えていた。
フセイン大統領の銅像が引き倒される、あのシーンを繰り返し何度も観た。
群衆とも言えたいほどの小人数の男たちが、銅像を壊し、辱めていた。
私はフセイン大統領に何のシンパシーも感じてはいたいし、彼がもっと早くに政権から降りていればたくさんの人の命が助かったのにと思うと、権力老の傲慢にムカっ腹が立つ。
だけども、あの銅像を引き倒して頭の部分を殴ったり転がしたりしているイラクの男たちを見ていたら、ひどく塞いだ気分になった。
嫌悪というんじゃない、もっとやるせない思いだった。
銅像の顔に巻こうとして引っ込められた星条旗。
あれは誰がどこから調達してきたものだろうか。
銅像の頭をポカポカ殴っている少年、彼はあのとき何を感じ、何を考えていたんだろう。
いろんなことを思ったのだけれど、考えはまとまらない。
仕方なく電気を消して眠りについた。
なにか夢をみたような気がするけれど、忘れてしまった。
翌朝、京都はとても気持ちのよいお天気で、満開の桜が春風に散っていた。
京都の友人と連れだって宇治まで足を延ばした。
平等院に行った。
川べりの桜も美しかった。
平等院を拝観して、罵麟堂の解説を受けた。
ぼんやりと聞いていたら、なんでも人間は生きているうちの行ないで「上の上中下」「中の上中下」「下の上中下」と、九ランクに分けられるらしい。
「大きなお世話だ」と私は思った。
このランクで死後に行けるところが違うらしい。
自分にだけかまけて普通に暮らしていたら、だいたい中の下か下の上あたりのようだ。
新幹線に乗って、家に戻って来てやれやれと荷物をほどき、またニュースをつけると再びフセイン大統領の銅像が引き倒されるシーソが映しだされた。
バグダッドでは警備が消えた政府の建物からの略奪が始まっていて、調度品をリヤカーに積んで運び出している男の人たちの映像が、その夜のうちにも何度も映った。
深夜のニュースでは、略奪はだんだんと過激になっていて、略奪の後に放火をする者もいること、秘密警察のアジトで化学薬品が大量に発見されたが、それもそのままの状態で放置されていること、など伝えられていた。
アメリカもイギリスも、現段階ではバグダッドの治安のために働く気配はないようだった。
以前に渋谷の自警巡回ボランティア、ガーディアン・エンジェルズを取材したときに「ブロークソ・ウィソドウ理論」というのを教えてもらった。
窓の壊れた家には泥棒が入りやすい。
破壊された地域では人間の良心が働きづらくなる。
「すでに何者かに汚されているものなら俺がやってもいいだろう」と人間は思うのだそうだ。
犯罪をなくそうと思ったら、街を清潔に保ち、景観を整然と美しくすることが有効だと言う。
ミサイルによって破壊された都市。
壊滅した土地では人間の精神は荒むのだろうか。

(本文P. 7〜9より引用)


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