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 アヒルと鴨のコインロッカー ミステリ・フロンティア 1
著者
伊坂幸太郎/著
出版社
東京創元社
定価
本体価格 1500円+税
第一刷発行
2003/11
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ISBN 4-488-01700-2
 
広辞苑強奪計画に巻きこまれた「僕」と、ブータン人留学生との恋を育む「わたし」。2つの物語が出会う時、忘れられない衝撃が胸を打つ。『重力ピエロ』の著者の最新傑作。
 

本の要約

引っ越してきたアパートで、最初に出会ったのは黒猫、次が悪魔めいた長身の美青年。初対面だというのに、彼はいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ち掛けてきた。彼の標的は―たった一冊の広辞苑。僕は訪問販売の口車に乗せられ、危うく数十万円の教材を買いそうになった実績を持っているが、書店強盗は訪問販売とは訳が違う。しかし決行の夜、あろうことか僕はモデルガンを持って、書店の裏口に立ってしまったのだ!四散した断片が描き出す物語の全体像は?注目の気鋭による清冽なミステリ。



オススメな本 内容抜粋

腹を空かせて果物屋を襲う芸術家なら、まだ恰好がつくかもしれないけれど、僕はモデルガンを握って、書店を見張っていた。
夜のせいか、頭が混乱しているせいか、罪の意識はなかった。強いて言えば、親への後ろめたさはある。
小さな靴屋を経営している両親は、安売りの量販店が近くに進出してきて、あまり良好とは言えない経営状況であるにもかかわらず、僕の大学進学を許してくれた。そんなことをさせるために大学へやったのではない、と彼らが非難してくれば謝るしかない。
細い県道沿いにある、小さな書店だ。
午後十時過ぎ、国道が近くを走っているはずだが、周囲は薄暗かった。
車の音もしない。
周りには、昔ながらの民家がぽつぽつとあるだけで、人通りもない。
書店の駐車場の脇に立つ看板は派手ではなかったし、等間隔で並ぶ街灯はどれも古いせいか、雲がかかった夜空にぼんやりと彦む月のほうが、まだ明るいように思えた。
雨は降っていないのに、町全体が湿っているように見えた。じめじめとして、夜に沈んでいる。
民家はどれも黒く見えたし、その中の住人は全員、眠っているかのようだ。
書店は、殺風景なコンクリート剥き出しという外観で、とりたてて賑やかな電飾があるわけでもない。
古くからある個人経営の店らしい。昼間は近所の子供たちにコミックスを売り、夜は車でやってくる若者にヌード雑誌を売り、それでどうにか維持していけるくらいの規模なのだろうか。
今時には珍しい、はたきの似合いそうな、書店だ。
僕たちが到着した時は、ちょうど閉店時間の直前だったので、駐車場に停まっていた車が次々と出て行くところだった。
古そうな白いセダンが一台だけ残っている。
書店員の乗ってきたものかもしれない。
僕たちは閉店間際にわざわざやってきた。
客ではないからだ。
店の正面の入り口を横目で見ながら、建物の側面とブロック塀の隙間を通り、裏側へまわる。
身体を横にしなければ進めないほどの狭さではなかったけれど、二人の人間がすれ違うことができるほどの幅はない。
裏ロドアのはめ込みガラスから、店内の明かりが零れていた。
裏ロドアの前に立つ。木目模様の扉で、ノブは銀色だ。ガラスがはめ込まれているのは、僕の顔の位置だった。
磨りガラスであるため、店内は濁った海面の上から水中を覗くようにしか、把握できない。
ブロック塀の脇に立つ、名前も分からない木が、長く垂れた枝を僕に向けている。
上から襲い掛かってくるような角度で、枝をしならせていた。威嚇してくるようにも見えた。
横には、エアコンの室外機やポリバケツが置かれている。
気のせいかもしれないが、挨や小便が混じったような匂いが漂っている。
そうだ、モデルガンを持ち上げなくてはいけない。
窓ガラスの位置に、握っているモデルガンを近づけた。
地面が揺れている、地震だな、と思ったが、何ということはない、単に自分の足が震えているだけのことだった。

(本文P. 4,5より引用)



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