旅が男をみがくのさ・・・。今戸の貸元、恵比寿の芳三郎の名代として成田、佐原へ旅を打つ音次郎。さまざまな試練を乗り越えて一人前の男へと成長していく若者の姿を爽やかに描く、股旅ものの新境地!
待望の新刊は股旅物です。今戸の貸元・芳三郎の若い衆・音次郎が、親分の名代として佐原を訪れることになった。初めての長旅に胸を膨らませる音次郎ですが、しょっぱなから失敗の連続。しかし様々な試練を経るうちに、次第に成長していきます。波瀾に満ちた物語と味のある登場人物たち、そして胸に迫る人の情け。三拍子揃った傑作が誕生しました。
「名代を出しやしょう」 間をおかずに源七が答えた。 江戸から佐原までは、陸路でおよそ二十四里(約九十六キロ)だ。 若い者が急ぎ足で一日八里を歩いたとしても、三日はかかる勘定だ。 芳三郎のいう佐原の兄弟とは、佐原宿を仕切る貸元、小野川の好之助である。 芳三郎と好之助は、ともに橋場の文吉から盃を受けた兄弟分だ。 好之助は二十三年前の明和二(一七六五)年に、在所の佐原に戻って三代目好之助を襲名した。 文吉のもとでともに下働きから修業を積んだふたりは、すでに四十年の付き合いになる。 好之助が佐原に戻ったあとの二十三年のなかで、ふたりは二度しか顔を合わせていない。 それでも交誼は途絶えずに続いていた。 源七もふたりの付き合いの深さはわきまえていた。 香取神宮の祭までにはまだ三月はあるが、誘いを断わる使いを間際に差し向けるわけにはいかない。 ゆえに名代を出すことを即座に口にした。 芳三郎は、ひと息おいてから長火鉢のそばまで膝を詰めさせた。 「あと三年で、組をおまえに任せる」 「聞かせていただきやした」 源七は半端な遠慮を口にせず、真正面で受け止めてあたまを下げた。 「つらをあげてくれ」
このページの画像、引用は出版社、または著者のご了解を得ています.
当サイトが引用している著作物に対する著作権は、その製(創)作者・出版社に帰属します。 無断でコピー、転写、リンク等、一切をお断りします。
Copyright (C) 2001 books ruhe. All rights reserved.