北京故事藍宇
著者
北京同志/著 九月/訳
出版社
講談社
定価
本体価格 1700円+税
第一刷発行
2003/10
ISBN 4-06-211786-X
 
香港の名監督スタンリー・クワンにより映画化され大絶賛された「藍宇」の原作本。天安門事件を挟んだ10年を駆け抜けた男2人の永遠の愛の軌跡。
 

覆面作家が中国全土を揺るがせた! 男が男を愛する運命の出会い。

天安門事件で揺れる北京の街。 二人はなぜ禁断の愛に身を投じたのか。

一大センセーションを巻き起こした問題作。 香港の名匠・關錦鵬(スタンリー・クワン)監督『藍宇』原作。

北京の若き実業家・陳悍東(チェン・ハントン)は、女も男もなく性に耽っていた。 ある日、東北出身の貧乏学生・藍宇(ランユー)を金で買う。 藍宇にとって、悍東は初めての性の相手だった。 「俺たちが出会ったのは、縁があったから。その気がなくなった時点で、おしまいにする。同性愛は、この国ではわいせつ罪だから」 運命の出会いは、こうして始まった。



あれからもう、三年が過ぎた。
……三年前、俺は毎晩、彼が戻ってくる夢を見た。
俺は驚喜してこう聞く。
「死んだんじゃなかったのか?死んでないのか?」
そして矢も盾もたまらずに彼の手を、彼の腕をつかもうとする。
が、いつも空っぽだった。
三年後の今も、俺は同じ夢を何度も見る。前とちがうのは、夢の中で俺はくり返し自分に言い聞かせるのだ。
自分は夢を見ているに過ぎないと。
そして目がさめる。
バンクーバーの天気は気持ちがいい。
北京のような砂塵が舞い飛んだり、蒸し暑かったりする季節などないかのように、いつも陽の光は明るく、微風は涼やかだ。
毎朝、目覚めると、俺はぼんやり考える……ここはどこだ。
窓の外のきれいな楓の葉が風にそよぐのを眺め、それから、隣でぐっすりと眠っている若い女俺の新しい妻を見る。
軽くためいきをつき、再び横になって、俺はまた夢の中の思い出に戻っていく……。
俺は、中国のいわゆる高級幹部の子弟だ。
といっても、木偶の坊のたぐいではない。
高校を卒業後、名門大学の中国文学科に合格し、二年生のときには悪友たちと、そこそこの会社を経営していた。
大学を出ると、かなりの借金をして自分の貿易会社を起こした。
もうかる仕事にはなんでも手を出し、人身と武器の売買を除けば、衣料から食品まであらゆる商売をした。
特に当時は東ヨーロッパとの貿易が金の鉱脈だった。
五年後には、父親のコネと自分なりの才覚のおかげで、会社の資産は一千万元を超えた。
そのとき、俺は二十七歳。
結婚などは考えたこともなかった。
それどころか俺は、固定的な性志向を持ち合わせなかった。
つまり女も男も相手にしたのだ。
女友達と肉体関係を持ち始めたのは、大学一年のときだった。
初めて寝た女のことをはっきり覚えている。
二学年上の縞麗な女で、目は特別ぱっちりしていたわけではないが、黒々とした長い腱毛と高い鼻に俺はそそられた。
彼女が笑うと、両側の頬に浅いえくぼができた。
そのころの俺は無知蒙昧、あるいは単純だったと言える。
この単純の二文字が意味するのは、つまらない男ということだ。
初めて関係を持ったのは、わが家の寝室でだった。
その日、俺たちは授業をさぼり、俺は理由をこしらえて家政婦を出かけさせ、女を家に入れた。
彼女はとても興奮した様子だった。
俺たちはまずしっかりと抱き合い、とめどなくキスをした。
服をまさぐって中に手を入れようとすると、彼女はかすかに顔をしかめて俺をそっとおしのけ、ダメ、やったことがないのとぼそぼそ言った。
俺の心臓はもう狂ったように跳びはねていて、もとより自分を抑えることなんかできない。
彼女の拒絶がますます俺を駆り立てた。
「愛してる。必ず結婚する」
とかなんとか、たわけたことを口の中で言いながら、馬鹿みたいにあせって彼女の服を脱がせ、自分も着ているものを脱ぎ捨てた。
ビデオで見たり仲間たちから教わったりしたようにやったが、何度も要領をはずし、最後は彼女のおかげでやっとやりおおせた。
彼女は泣き、傷ついたようだった。
恨まれているみたいで、俺はうしろめたい気持ちにさせられた。
思うに女というのは、だいたい最初は泣くものなのだ。
その後、俺たちはベッドに並んで寝ころんだまま結婚のことを話し合った。そのとき俺は、彼女への感激で胸がいっぱいだった。
一人の女がこうして俺に体を許し、男の傲慢の極致へと至らせてくれたのだ。
彼女は自分にとって生涯唯一の女性というわけではあるまい、とひそかに思ったことはあった。
だが彼女は、きっと俺の妻になるのだろう。
俺は、愛にめぐりあったのだと思いこんでいた。
一年もたってから、自分がそもそも彼女にとって最初の男ではなく、三番目だか四番目だかも分かったものではないことを知った。
学部で周知の事実だったが、俺がそれを知った最後の一人だった。
愛が終わった後、俺は次から次へと女を替えた。
やがて十分に経験豊富だと自認するようになり、次第に、もはや女を見つけることは重要ではないと感じるようになっていった。
問題は、どう切れるかなのだ。
(本文P.3〜5 より引用)


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