トレインスポッティングポルノ
著者
アーヴィン・ウェルシュ/著 池田真紀子/訳
出版社
アーティストハウスパブリッシャーズ
定価
本体価格 1600円+税
第一刷発行
2003/09
ISBN 4-04-898125-0
 
平凡な日常をしゃぶり、退屈な生活をナイフで突き刺す。面倒なヤツらが、帰ってきた!
 

リリー・フランキー氏推薦!ロンドンでくすぶっていたシック・ボーイは伯母からパブを譲り受け、スコットランドのリースへと戻ってきた。レントンはアムスでひっそりとクラブの経営者におさまり、殺人罪で服役中のベグビーは出所期限が近づき、あの男への復讐の念に燃えていた。そしてスパッドは相変わらず・・・。世界中を熱狂させた「トレインスポッティング」待望の続編です!



1悪巧み #18,732

やつにしては珍しく、ドラッグのやりすぎのせいじゃなく労働から汗を流しながら、クロキシーはレコードの入った最後の箱を抱えて階段を上ってくる。
おれはベッドに倒れこみ、鈍い脱力感とともにクリーム色のベニヤの壁を見つめた。
ここがおれの新居か。
それにしても狭苦しい部屋だ。幅四メートル、奥行き五メートル。
ほかには廊下とキッチンとバスルーム。
部屋にあるのは、扉のない造り付けのクローゼット一つ、ベッド、あとは椅子二脚にテーブル一つがどうにか置けそうな空間だけ。
こんなとこに長居はしたくない。
ここよりは刑務所のほうがましだろう。このままエディンバラに帰って、この薄ら寒い家畜小屋とフランク・ベグビーの監房を交換したっていい。
クロキシーの吸う煙草の匂いが染みついた窮屈な部屋にいると、息が詰まりそうになる。
おれは三週間前から禁煙してるのに、やつにつきあってるだけで、きっと一日三十本は受動喫煙させられてるだろうな。
「のどの渇く仕事だな、ええ、サイモン?〈ピープス〉にでも行って一杯やるか」クロキシーが訊く。
やけに熱のこもったやつの言い方は、勝ち誇ってるみたいだ。
サイモン・デイヴイッド・ウィリアムソン様の零落ぶりをほくそ笑んでいるような顔つき。
ある意味、メア・ストリートに行くのは〈ピープス〉にのこのこ出かけていくのは、純然たる愚行だ。
にやにやしながらこう訊かれまくるだけだろう。
「ハックニーにご帰還だって、サイモン?」だが、まあ、いますぐ欲しいのは気晴らしだ。
おれの話をありがたく拝聴する耳だ。欝憤を晴らす相手だ。
それに、クロキシーには少し風を当てたほうがいい。
やつと一緒にいて禁煙するのは、ジャンキーが乗っ取った空き家に居候してヤクを断とうとするようなものだ。
「おまえ、ここに越せて運がよかったな」クロキシーは荷ほどきを手伝いながら言う。
ふん、へそが茶を沸かすぜ。おれはベッドに寝転がる。部屋全体が、がたごとと揺れた。
リヴァプール・ストリート行き特急列車が、おれの新居のキッチンの窓から一フィート先のハックニー・ダウンズ駅を快調に通りすぎていく音だ。

(本文P.7 より引用)


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