もう1度、あなたに日記帳を渡します
今日から日記をつけることにしました。
むかし、わたしが東京キッドブラザースの研究生だったとき、日記を書くことが義務づけられていましたね。
あなたは、「1冊の日記帳を劇場だと思って、1日1日に光をあてて、ドラマを創ってください」といいました。
定期的に提出して、あなたに感想を書き込んでもらうことになっていましたが、わたしの日記帳だけは返してもらえませんでした。
日記を提出した翌日、あなたに呼ばれました。
わたしは演出台の前に正座し、うつむいてあなたの言葉を待ちました。
あなたとの交換日記のつもりで、あなたに対する思い(面と向かって口にしたら、関係が終わうらつづってしまうような怒りや憎しみや恨み)だけを綴ってあったからです。
「あなたには書く才能があります。演じるよりも書いたほうがいいかもしれない」
書く才能があるといわれたことよりも、演じる才能がないといわれた(のだと思った)ことが大きくて、うつむいたままつぎの言葉を待ちましたが、そのことについてはそれっきりでした。
もう1度、あなたに日記帳を渡します。
今度は感想を書いてください。
11月20日火曜晴れ
午前5時。うーん、ああ、うーん、と苦しげなうなり声が聞こえる。
眠ったぱかりで眠くてたまらないので聞こえないふりをするが、あッあッという短い泣き声に変わって、「もうッ! なにッ!」と目を開けた。
息子はパジャマの首のところに右腕を突っ込んで痛がっていた。(襟ぐりが腋の下に食い込んでいました)
「ごめんごめん、痛いね、ごめんなさい」と謝りながはずらパジャマのボタンをはずしてやる。
どういう弾みで腕を抜いて襟に通してしまったのかはわからないけれど、この子はほんとうに寝相が悪い。
赤ちゃんのころは夜中の授乳で寝不足、いまは布団を掛け直すために寝不足。
夜12時から朝6時までのあいだに、多いときは30回も布団を掛け直す。(あなたは、またおおげさに、と笑うでしょうが)半ば神経症みたいになっていて、布団から転がり出る微かな音で起きてしまう。
去年の4月、風邪をこじらせて肺炎になって入院したので、たかが寝返りとあなどれない。
昨日はうっかり眠ってしまって、くしゃみの音で頭を起こしたら、フローリングの床の上でカブトムシのような格好で丸くなっていた。
母に、「このままだとまとまって30分も眠れないよ。ノイローゼになるかも。寝袋買って押し込めるしかないのかな?ほんと、やんなっちゃうよ」と訴えたところ、からだがすっぽりおさまる綿入れをつくると約束してくれた。(母は以前話したように、ここ4、5年、和裁教室に通ってい
ます)
8時から1時間かけて朝食。
ごはん、チンゲン菜とあぶらげあえもの油揚の和物、かぶとなめこ煮、ブロッコリーとにんじとうふみそしるんのきんぴら、わかめと豆腐の味噌汁というメニューだったのだが、スプーンを持っていっても口をひらいてくれないので、「英語であそぼ」のJB(ギョウザが大好物の黄緑の大きな鳥)といっしょに、「ツイスト!」「ジャンプ!」「ターン!」「シェイクー」をし、「おかあさんといっしょ」の「あさごはんマーチ」のさびの部分、「ああ、あさだよお、あさごはん、あさ、あさ、あさ、あさ、あさごはん、しっかり食べよう、あさごはん、ああさごおはん、あさごはん」とうたいながら口に入れてやるが、「べえッ」といって吐き出され、「駄目ッ1口に入れたら食べるッ、今度べえッしたらぶつよ!」と怒鳴りつける。
どの育児書にも(20冊は買って読みました)「駄目というのは禁句。褒
めて自主性を尊重してやる」と書いてあるのだけれど、「駄目駄目駄目駄目!」と連発することも多いから、わたしは1日に1000回は口にしているかもしれない。
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