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「彼女と会いました」
神の言葉は君国を驚かせた。
「もうそこにいるのか」
「いえ。今は例の大男といっしょです」
「どういうことだ」
君国はコードレス電話をもったまま立ちあがり、窓辺へと移動した。
今夜の京都は暗い。
ひどく濃い闇が、この古い都の上空にたれこめている。空気もどんよりとしていて、重い湿気を含んでいた。冬がもうすぐそこまできているというのに異常に暖かい。いや、暑いほどだ。
開かれた窓からは、そよとも風は流れこんでこたい。
「『槍」のいった通り、彼女はひどく頭が回るようです。『槍』をだしぬき、危うく、俺もだしぬかれるところでした」
「会ったとはどういうことだ」
「デパートの屋上でね。街を見おろせるデパートの屋上で、彼女は「槍」を見張っていたんです。おそらくそれ以外の連中もね」
神の声におかしそうな響きが加わった。
「偶然ですよ。私もライフルを使える場所を捜していました。そうしたら彼女がそこにいた」
「お前に気づいたか」
「目があいました」
君国は受話器を握りしめた。
「どうしたっ?」
はつみは、神の恐ろしさを知っている。そんたところで神に出会ったら、屋上からとび降りてしまっても不思議はたい。
「どうも。少し警戒したようですが、そのまま出ていってしまいました」
「………」
「妙でした。腰を抜かすほどえるかと思ったのですがね」
「確かにはつみだったのか」
「まちがえるわけはありません」
いったいどうなっているのだろう。
「ヘリを使ったとき、頭に撃ち込みました」
神がいった。
「そうか!」
「ええ。たぶん記憶をなくしているんじゃたいでしょうか。それで俺を見てもわからたかったんです」
何ということだ。君国は荒々しく息を吸いこんだ。
とすれば、この自分のことも、はつみは忘れているのか。
神がいった。
「『槍』が彼女を連れていこうとしたとき、例の大男が現われました。なかたかです。ただの刑事じゃありません。やり方が荒っぽい」
「お前はどうしたんだ」
「『槍」はあっさりそいつに絞めあげられましてね。余分な話がでちゃまずいんで、とりあえず……」
「たぜそこで大男もやらたかった」
君国は冷ややかにいった。神のつまらない好奇心がでたにちがいない。
「やればまた彼女を見失いそうだったので」
神は少し黙り、答えた。いいわけだ。ライフルであっさり殺したくたかったにちがいたい。
自分の手で、ナイフで、楽しんで大男を殺りたかったのだ。
「で、今のいどころはわかっているのか」
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