ボケたくない!誰もが元気で長生きしたいと望む高齢化社会。だが、老人性痴呆症は確実に忍び寄っている。ボケと呼ばれる恐ろしい痴呆症にかかるのはどんな人か。性格、職業、家庭環境等で違いはあるのか。ボケ防止はできるのか。老人病院院長が現代老人病の最新情報をもとにボケない方法を明らかにする。
[目次] 第1章 ボケに関する最新知識;第2章 職業でわかったボケる人ボケない人;第3章 性格でわかったボケる人ボケない人;第4章 家庭環境でわかったボケる人ボケない人;第5章 ボケを恐れるな!;付章 絶対ボケない、ボケさせないための生活ガイド;おわりに フレディの遺言―私を介護してくれるあなたへのメッセージ
振り返ってみると、20世紀は医学の進歩の時代だと言っていい。 人類の歴史を考えてみればすぐにわかることだが、実は、!9世紀までは電気もなかったし、飛行機もなかった。 それが、わずか100年の間に、現代のような素晴らしい科学文明ができあがったのである。 医学もまた、その科学を中心とした文明の勢いに乗るがごとく、それまで治らなかった病気を次々と治してきた。 死の病と呼ばれた結核も、いまでは怖い病気ではなくなったし、脳外科や心臓外科の手術の進歩は、目を瞠るものがある。 10年前だったら確実に死んでいた患者さんが、いまでは高度な医療によって死なないですんでいる。 しかし、だからといって、近代科学である医学を通して、人間がすべての病気を克服したと考えるのは大間違いである。 ある種のガン、エイズ、感染症もまだ克服はできないし、パーキンソン病などの難病も数限りなく、現代医学の前に壁となって立ちはだかっている。 さらには、最近では抗生物質がまったく効かない細菌が現れ、問題になっている。 つまり、20世紀に入って、急激な進歩を遂げた現代医学でも、治すことができない病気は、まだ数かぎりなく存在する、ということだ。 医学は、それに向かって、日夜、研究を続けているのである。 ある夜、私はひとりで行きつけの店で、美人のママを相手に酒を飲みながら、簡単な夕食をとっていた。 すると、同じカウンターに座っていた知り合いの会社社長から、何気なくこんな質問を受けた。 「先生、こ牝だけ医学が発達しているのに、ボケの特効薬がなぜできないんですかね」と。 聞けば、同居している社長夫人の母親が最近、ボケて、例の「ごはんまだか」を繰り返しているのだそうだ。 だんらん 数日前、夕食を久しぶりに家族団簗のうちに終了したのに、おばあちゃんが夕食を食べたことを数分後には忘れて「晩ごはんは、まだかね」と言うようになり、その時から、家族の団簗はいっぺんに吹き飛んでしまった。 社長と奥さんは、「あっ、おばあちゃんがボケた!」と感じた瞬間、その恐怖でいっぺんに凍りついてしまったのだそうだ。 以来、毎日のように、「何言ってるの、さっき食べたでしょ!」と奥さんは自分の母親に対して目をつり上げて怒鳴るようになるし、社長にしてみれば、家でのこれまで通りの晩酌どころの雰囲気ではなくなったそうだ。 「妻も困っているんだから、本当は早く家に帰ってやればいいんですけど、見ているのがつらくて、こうして、ひとりで外で食事をしているんですがね」と苦笑いをしていた。 食べた直後の「ごはん、まだか」は、いわゆる典型的なボケの症状である。 たしかに、それまでそんなボケた様子も見せなかったお年寄りが、突然、そんなことを言いだした時の恐怖は、想像にかたくない。 それほど、この「ごはん、まだか」はボケた人が口にする典型的な例である。 (ああ、またひとり、おばあちゃんがボケた……。でも、それを怒鳴ると、もっとひどいことになるぞ……)と私は思った。 と同時に、社長の「特効薬がなぜできないのか」と言うその淋しげな口調のなかに、私は彼の近代医学への不信感を感じとった。 彼のその言葉の裏には、「21世紀の日本は高齢者ばかりの社会になる、とずいぶん前から言われ、現実に次々とボケてしまうお年寄りも増えてきているのに、医学界はこれまで何をしてきたのか」という意味が含まれていたように思えた。 これは、社長だけの思いではない。 ボケた親を抱えた多くの家族が、すがるような気持ちで、そう思っているにちがいないのだ。
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