カツラー
力ツラーとは、力ツラをつけている入を意味する愛称です。
これはもちろん「仲間意識」と「いたわり」と「未来への希望」を込めて著者が考えた新語です。
徐々に認知度が上がってきたかな?
放送禁止用語には該当しません。
軽やかに、どんどん使ってください。
★「言ってしまえば、ラクになれる」?
「はじめじめまして、浜田と申します。
小林さんのおかげでいい力ツラを知り、かれこれ装着から1年がたとうとしています。
最近では普段つけていることを忘れるくらい快適な毎日です。
1年前は気分的にもどん底でした。
まさか22歳で力ツラ生活に入るとは思ってもいませんでしたから。
でも現在は、それを受け入れて以前の明るさを取り戻せたように思います。
日常ではわずらわしいこともなく、快適です。
が、最近かなり困った状況に陥っています。
久々に彼女ができたのです。それは非常にうれしいのですが、自分が増毛していることを相手に伝えるかどうかで迷っているのです。
付き合い始めてあまり時間がたっていないので、まだ「そういう関係」にはなっていないのですが、そうなるのも時間の間題になってきました。
その状況になってから告白するべきか、まえもって言うべきか。
それとも、言わずにそういう行為に及ぶか……。
でも、その最中に頭でもつかまれたら酒落になりませんよね。
軽く撫でられるくらいなら、バレないとは思うのですが……。
付き合い始めて間もないので、これからずっと一緒にいるのかどうかわからないのが現状です。
だから、バレずにすむなら言わなくてもいいようにも思います。
でも、言ってしまえば、楽になれるのは事実です。
友人に相談したら、「力ツラだという理由でダメになるようなら、これ以上付き合っても意味がないんと違うか。いっそ告白して、ダメなら次を探せば」と言われました。
たしかにその通りかもしれませんが、そんなに単純でもないです。
こんな悩みは、力ツラーになるまえには思いもよらなかったことで、非常に悩んでいます。
いずれは超えなければならないハードルだと、力ツラーになってからずっと思っていましたが、こんなに早く訪れるとは思いませんでした。
いつもこのことばかり考えているので、本分の学業にも身が入らない状況です。
小林さんの観点から、何かアドバイスをいただけないでしょうか。
お忙しいと思いますが、時間的に少しでも余裕がありましたら、お答えいただければうれしいです。
長いメールになって申し訳ありません。よろしくお願いします。』
このメールが届いたのは、夏が過ぎ、秋の気配が深まり始めたころだった。
新しい恋が芽生えた。
本来なら胸をときめかせ、有頂天になっても不思議じゃない。
なのに、カツラーは無邪気に喜んでばかりいられない。
恋をすればしたで、新たな悩みに直面するのだ。
ときめきと背中合わせに襲いかかる葛藤……。
(どうしたらいいんだ……)
ゴールの見えない苦悩の中を延々とさまよい続ける羽目になる。
(カツラでさえなければ、悩む必要はないのに)
自分の運命を恨む。
なぜ自分だけが、こんなに若くして髪が薄くなってしまったのか。
浜田君もそうした若きカツラーのひとりだ。
果たして、悩める22歳のカツラーにどんな助言ができるだろう。
カツラに関する情報なら、自分の体験や知るかぎりの事実を伝えればいい。
恋愛のアドバイスとなると自信がない。
だけど、浜田君には「カツラと恋」の悩みを、実際にカツラを使っている体験者と話せるチャンスは少ないだろう。
カツラーの先輩として、できるかぎり誠意を持って回答しよう……。
僕は、心をこめて次のメールを送った。
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