坂本龍一さん、推薦!ヒロシマから、アウシュビッツから、チェルノブイリから、数え切れないほどの都市や町や村や、そして無数の戦場から・・・20世紀に書かれ、相手に届くことのなかった手紙の数数。戦争と殺戮の世紀から21世紀へと、わたしたちが託されたものとは何なのか?心震わせる詩と、優しい眼差しの絵が織りなす、希望を探す絵本。
坂本龍一のオペラ『LIFE』のためにわたしが書いたテキストに絵をつけたいと、はまのゆかさんから聞いたとき、そんなことが可能なのだろうかと思った。 そのテキストは非常に短いもので、しかも短編小説でも詩でもエッセイでもなく、まさに「テキスト」と呼ぶしかない特殊な文章だったからだ。 『POSTMAN」というテキストは、坂本龍一との長い長いメールのやりとりの末に生まれた。 わたしたちは、オペラ『LIFE』では物語性が排除されるということを了解していた。 『LIFE」は、実にさまざまな音と音楽と歌とダンスと映像がミックスされて同時進行するという実験的なものになりつつあって、そういうオペラのテキストを書くのは簡単ではなかった。 しかし、わたしは自分でも驚くほど早くテキストを書き上げた。 坂本龍一との2年にわたるメールでのやりとりで、彼が『LIFE』で何を表現しようとしているかを、わたしなりに理解できていたからだと思う。 そのテキストに、はまのさんが絵をつけた。 いったいどんなものになるのかと思っていた。 しかし絵を見たときに、懸念や異和感は消えた。 坂本龍一の世界観と哲学に対応して書かれたテキストが、またさらに一人のアーティストの手によって、独立した作品になった、と思った。 音楽家や作家や画家は、それぞれに孤独で、基本的に誰の手も借りずに一人で作品を作るが、ある何かを共有することがある。 その、共有という感覚が、今とても大切なのだと思う。
村上龍
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