めぐみ、お母さんがきっと助けてあげる
著者
横田早紀江/著
出版社
草思社
定価
本体価格 1500円+税
第一刷発行
1999/10
ISBN 4-7942-0921-5
拉致問題の解決を迫る母の愛と勇気。「身代わりになれるものなら、今すぐに代わってあげたい!」我が子を取り戻すため、あえて実名を出すことを決意。被害者の早期救出を訴えつづける母が、事件以来二十余年に及ぶ辛苦をつづる。涙なくして読めない慟哭の手記!

昭和五十二年十一月、日本海に面した新潟の町から一人の少女が忽然と姿を消した。新潟市立寄居中学の一年生だった横田めぐみさん、十三歳。大がかりな捜索も虚しく、生死不明のまま二十年が過ぎた平成九年、両親のもとに驚くべき事実が伝えられた。めぐみさんは北朝鮮の工作員に拉致され、平壌で暮らしていると…。ある日突然、理不尽な事件に巻き込まれ、愛する娘と引き離された母が、二十年に及ぶ辛苦の日々を綴った慟哭の手記。

[目次]
プロローグ 娘が元気でいるという夢を見て;第1章 ある日突然、娘がいなくなった;第2章 五人家族のにぎやかな食卓;第3章 手がかりを求めて;第4章 笑うと、えくぼが;第5章 わが身に代えても;エピローグ 凛然とした日本人の心で、一日も早い救出を

[目録情報]
愛するわが子は北朝鮮に拉致されていた!娘との再会を願う母が辛苦の胸中を綴った慟哭の手記。 (社会図書総目録より)

プロローグ

娘が元気でいるという夢を見て

娘のめぐみは、昭和五十二(一九七七)年十一月十五日の夕方、中学のバドミントン部の練習を終え、暗い海岸へ向かう通学路を、部活の友だち二人とともに帰宅する途中、忽然と消息を絶ちました。
新潟市立寄居中学の一年生、十三歳でした。
それから二十年、あの明るい声を聞くことも、あの笑顔を見ることもなく、私たち家族は辛い日々を過ごしてきました。
あらゆる捜索にもかかわらず、まるで神隠しのように消えてしまった娘でした。
娘が失踪してから二年ほどのあいだに、私は五つの夢を見ました。
その五つの夢だけは、今でもはっきりと覚えているのです。最初に見たのは、私とめぐみが板を敷いた桟橋で渡し船を待っている夢でした。
船はまだ見えませんが、私たちはそれに乗ろうとして待っているのです。
目の前の川はそれほど大きくはなく、緑っぽい色をしていました。
私たちの後ろには大勢の人が並んでいました。
そのときの娘はものすごく青白い顔をしていました。
着ていたレインコートも青磁色で、めぐみがいつも着ていたものとは違っていました。
私は、やりきれない寂しさに襲われていて、とても不安な感じがしました。そんな何とも嫌な夢を見て、パッと目が覚めました。
つぎに見た夢には、娘が通っていた寄居中学校の下駄箱が出てきました。
私がそのかたわらに立っていると、娘の捜査をしてくださっていた刑事さんが近づいてきて、「いやあ、横田さん、大変なことだったねえ。本当に酷いことだったから、
何とも言いようがないけれども」とおっしゃるのです。
ふと見ると、下駄箱の隅っこに黒いビニール袋がポツンと一つ置いてありました。
バラバラにした遺体の一部をビニール袋に入れて捨てるという事件がありますが、「ああいうことなんだ」と、刑事さんから説明を受けているというような夢でした。
私は血が凍りそうになって、びっくりして目が覚めました。
そのつぎの夢も水に関係があって、海で溺れかけている子猫を助ける夢でした。
私と亡くなった京都の母が海岸を歩いていると、可愛い子猫が溺れかけています。
私は猫が好きだし、可哀相にと思ってウワーッと海の中に入っていきました。
私は泳げないのに、海はだんだん深くなっていきます。
それ以上行ったら駄目だという際々のところまで来ました。
母は着物を着ていたのですが、「危ないよ、危ないよ」と言いながら、私の後ろからついてきました。
私は精一杯手を差し延べて、うまく子猫をつかまえることができました。
よかったねえ、と言って子猫を抱き上げると、母も「ああー、よかったねえ」と言って、すごく喜んでいました。
それが三つ目の夢です。
めぐみは出てきませんでしたが、あの頃見た不思議な夢として、はっきり覚えているのです。
四つ目の夢では、私がどこかのお蕎麦屋さんに、やはり京都の母と向かいあって座っている場面でした。
そこへ「何を食べますか」と言って少女が注文を取りにきました。
顔を見て、びっくり。
それがめぐみだったのです。
「まあ、めぐみちゃん!何でこんなところにいるの。どんなに心配していたか。でも、よかった。元気でここにいたのね」と私が言うと、めぐみは輝くような明るい顔をしてニコッと笑いました。

 

(本文P.7〜9 より引用)


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