小説のゆくえ
著者
筒井康隆/著
出版社
中央公論新社
定価
本体価格 1800円+税
第一刷発行
2003/04
ISBN 4-12-003382-1
小説に未来はあるか。永遠の前衛作家が現代文学へ熱きエールを送る。刺激に満ちた最新エッセイ集。

「悪と異端者」(中央公論社)以来、実に7年半ぶりになる、筒井康隆さんの本格エッセイ集です。もちろん、演劇関係のエッセイのみに絞った「文学外への飛翔」(小学館)やトークエッセイの形をとった「笑犬楼の知恵」(金の星社)は発売されていたのですが、これらの本は、本来の筒井節とは趣が異なっていました。この「小説のゆくえ」には、断筆宣言以後の、様々な出来事について筒井さんの心の動きや肉声が、まさに手に取るように伝わってくるような渾身のエッセイ100本が収録されています。冒頭から「21世紀 文学の創造」(岩波書店)に寄せた、筒井さんの本格的な文学論が綴られており、これがまさに「小説のゆくえ」たる所以になっています。しかし、このエッセイ集の凄さはそれだけではありません。第二章以降は、実に多種多彩なエッセイが収録されているのです。本格的なエッセイはもちろん、推薦文、あとがき、前書き、選評、追悼文、ト書き、オビの文章、受賞のことば、そして、断筆解禁コメント、覚書(!)、に至るまで収録してありますから、本当に、断筆宣言以降の筒井さんのエッセイ集大成といえる本になっています。ツツイストにとっては、まさに宝箱のような本なのですが、さらにとっておきの情報を。何と、真っ赤な地色の表紙に映える、味わい深い題字も筒井さんの直筆なのです!この題字は、カバーおよび本体の背表紙や裏表紙、扉やオビにまで書かれていて、筒井さんの思い入れが伺えます。この本を読まずして現在の筒井康隆は語れません。そうですとも。もう、そうに決まりました。


世界から文学へ文学から世界へ

21世紀文学の創造@』(岩波書店)二00一年十一月


「21世紀文学の創造」の第一巻である本巻「現代世界への問い」においては、文学の側からの、現代世界へのさまざまな問いかけと考察がなされる。
まず関井光男は「日本資本主義と文学言語・貨幣・著作権をめぐって」において、資本主義経済の発展に伴う「文学」のエピステーメの破綻、「文学」の言説のバブル化をとりあげ、その原因が「文学」の他の人文科学各ジャンルからの離脱、職業作家と職業的評論家の出現によって「文学」が独自の領分で純粋培養されたことなどにあるとし、これらの問題を、主に「著作権」という、過去の「知」のモデルに求めて考察する。
また逆に島田雅彦は「あえて文学の革命を唱える」において、資本主義経済のもとで国家権力への抵抗というテーマを忘れた文学に問いかけをする。そして文学が文学的想像力による国家や法を作り、貨幣や言語の今ひとつの流通手段となって、現実の資本主義の暴走を食い止めることを提唱する。
さらに、こうした資本主義社会のもとで、マーケッティングの論理に従わねぼならぬ文学の運命に、佐藤亜紀は「物語のゆくえ」で異を唱えている。
ここでもまた技法による革命が提唱される。
「命令と物語断片化する世界の考察」における港千尋の問いは、情報という、それ自体で完結した断片に覆われている世界に向けられたものである。
プロップによる「物語のシークェンス」が最初期の物語にも発見できると主張するブルケルトの「物語の生物学的起源」という仮説と、カネッティの「命令には生物学的起源がある」という主張とが補完しあっていることを指摘し、米同時多発テロに際立って見られる「二重の死刑判決」という命令が廃止できるような物語を二十一世紀に求めている。
「戦争と文学の言説を検証する」において川村湊は、戦争文学を例にあげて、日本人の戦争に対する観念を論じている。ここでは「支那事変」という、実際には宣戦布告をせずに戦争状態に入った戦前と、「宣戦布告」をする「交戦権」のない日本が自前で「戦争」を起すことのできない戦後とが、直接的につながっていることの指摘がある。
どちらも実質的には戦争行為をしていながら、戦前には国対国の戦争という観念、戦後には戦争に加わっているという観念が日本人にはなかったことを(現在もまた、ないことを)検証しているのである。
清水義範は「『弱者』と文学」で、表現の自由と基本的人権の拮抗を、弱者をキイワードに考察している。
人間すべてが弱者にならぬ限り、この問題は解決しないのかという問いかけがここにはある。
小谷真理は「なりすまし文学の現在形一パッシング小説とサイバーパンク」において、文学に描かれた、手法としての越境のテーマを考察している。黒人と規定されながら、見た目は白人である女性の、白人社会への越境、ネット内アイドルとしての、肉体を持った女性の越境などが例にあげられ、そこでは現実世界で隠蔽されている「性差」や「人種」による、「差別」や「越境」がより苛烈に反復されていることが報告される。
「文学の合理的な死滅現代の生と死−生命科学と文学」で大岡玲は、文学の形式を根本から変えかねない生命科学に対して問いかけ、不滅が現実となれば、永遠を捉えようとしてきた文学は死滅するのではたいかという危機感を提示している。
こうした世界の中で、文学には何が可能かを、全体をまとめる形で筒井康隆が「現代世界と文学のゆくえ」として論じる。
文学に関心を持つすべての読者に、その可能性について共に考えていただくことを編者は期待する。

(本文P.5〜7より引用)

 
 


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