どんなピンチも切り抜けられる言い訳オンパレード 誰も傷つけずに「いい人」になる技術
著者
ャンヌ・マルティネ/著 佐藤志緒/訳
出版社
ベストセラーズ
定価
本体価格 1300円+税
第一刷発行
2003/03
ISBN 4-584-18728-2
無敵のフレーズ大集合!誰も傷つけずに「いい人」になる技術。どんなピンチも切り抜けられる言い訳オンパレード!!言い訳して、幸せになろう。

上手にごまかして断りたいとき、これ以上言い逃れできそうもないとき、相手を怒らせずに納得(同情)してもらう方法を紹介。

[目次]
1章 言い訳することは悪くない;2章 先制攻撃;3章 かわして隠れろ;4章 おとぼけ名人;5章 言い訳オンパレード;6章 早撃ち―緊急事態のために;7章 じっくり時間をかけた戦略;8章 第三者を利用した回避手段;9章 テクノロジーを利用した言い訳;10章 からだを張ったごまかし;11章 上級者向けの大胆な離れ業

はじめに

「いやならいやと言えばいい」というのはホント?
それは感謝祭が目前に迫った、ある十一月のことです。
当時、私は日々の雑用に追われ、精神的にかなり切羽詰まっていました。
次から次へと自宅へ泊まりに来る友だち。
早く原稿を仕上げろと矢のような催促を続ける編集者。
身内のクリスマス・パーティーを企画せよと電話をかけてくる親戚。
請求書の支払いはまだかと問い合わせてくる業者……。
おまけに、飼い猫は目の病気にかかり、「早く医者に連れていけ」と言わんばかりにムクれています。
そのうえ、私までインフルエンザにかかり、ほとんど倒れそうな状態でした。
つまり、その頃の私は、あれこれと要求をつきつけてくる人びとと連日戦い続け、息も絶え絶えの状態だったのです。
その日の晩も、私は疲れきってマンションに帰宅しました。
食料品をどっさり抱え込み、ようやくエレベーター・ホールヘ到着です。
やれやれ、ありがたいことに他に乗客はいません。
誰かと世間話をするような気分ではなかったし、一刻も早くわが家にたどりつきたい気持ちでした。
ああ、あともう少しで一息つける……。
そう思ってほっとした瞬間、閉まろうとしたエレベーターのドアの間から、突然一本の腕が割り込んできたのです。
まるでホラー映画の一シーンのように。
乗り込んできたのは、上の階に住む顔見知りの女性でした。
つい最近、処女小説を書き終えたばかりの彼女は、その作品をどうしても私に見せたくて、毎日のようにエレベーターの前で待ち伏せていたのです。
半年前、なまじ「がんばって」などと励ましたのがいけなかったのです。
あんなことさえしなければ、彼女もこの私を初の読者に選ぼうなどとは思わなかったでしょう(ちなみに、同じような理由から、私の寝室にはすでに知り合い四人分の小説原稿が手つかずのまま放置されていました)。
「あら、こんばんは!」エレベーターが動き出すと、彼女はやたらと愛想よく話しかけてきました。
「ああ、会えてよかった!今ちょうどここに原稿を持ってて…‥。これで送ったりする手間が省けたわ」彼女はそう言うと、小脇に抱えたバッグを指さしました。パンパンに膨らんでいます。どう少なく見積もっても五〇〇ぺージ以上はありそうです。そのとき、私の中で何かがプチッと音を立てて切れました。
激しく頭を振りながら、うーんとうめき声をあげた私に驚いて、彼女はこう尋ねました。「えっ、ど、どうしたの?」
「ごめんなさい。私、できない」
「できない?できないって何が?」
「その原稿、読むことができない」
「でも、そんなに長くないのよ」彼女は懇願するように言いました。
「ただ、この原稿を……」
「いいえ、絶対におことわり!」私の声はエレベーター中に響きわたりました。
その剣幕に圧倒されたのでしょう。
私が先に降りたときも、彼女はまだそのまま口をあんぐりと開けていました。
念のためにいっておきますが、これは私にとって最も思い出したくない出来事です。
実際、なるべく思い出すまい、早く忘れようと努めていたのです。
その一週間後、次の泊まり客がうちにやってきました。
その日は、身も凍るような冷たい雨が降っていて、マンションに到着したときには、ふたりともすっかりびしょ濡れでした。
一刻も早く暖かい部屋に入りたい一心で、小走りでエレベーター・ホールヘと向かいます。すると、そこにはちょうどエレベーターが待っていました。
中に乗っていたのは、先の彼女です。
「お願い、待って!」私は叫びました。
すると、彼女は非情なほほえみを浮かべこう言ったのです。
「あら、絶対におことわりよ!」一私たちの鼻先で、無情にもエレベーターのドアはぴしゃりと閉まりました。雨のしずくをポタポタと滴らせながら、私たちはその場に呆然と立ち尽くすしかなかったのです。当然ながら、何も事情を知らない私の連れは相当腹を立てていました。でも、私は恥ずかしさのあまり、身も魂も消え入る思いでした。そのとき、私は心に決めたのです。

(本文P.13〜15より引用)

 

 
 


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