■目次 第1章 鈴木敏文はどのように意思決定しているのか(「客観」と「直観」、二つの“カン”で発想する;鈴木敏文を見ている「もう一人の鈴木敏文」 ほか);第2章 商売は「経済学」ではなく「心理学」で考えろ(顧客は「経済人」でなく「心で動く人間」である;顧客の心理を読む「琴線と金銭」の商い ほか);第3章 半歩先を読む鈴木流「統計術」の極意を学ぶ(鈴木流経営学の原点は“隠れた大学院時代”にあった;なぜ、「現場主義」ではなく「データ主義」なのか ほか);第4章 鈴木流「場のつくり方」を学ぶ(徹底してダイレクト・コミュニケーションにこだわる;繰り返し伝えることにより基本を「血肉化」させる ほか);第5章 現場の社員たちはどのように鈴木流経営学を実践しているか(社員のコミュニケーション能力を重視する;仮説・検証を店舗経営に活かす ほか) ■要旨 鈴木流経営学の強みは、アメリカからの借り物の手法ではなく、ビジネスの最も根本的な部分で、ものごとをどのように捉え、どのように考えるべきかという独自の発想法や思考法をつくりあげてきたことにある。ユニークではあるが、ベーシックな発想と思考に裏付けられた55の金言に、変化の激しい現在のビジネス社会を勝ち抜くための目の覚めるような知恵を見出していく。セブン‐イレブン総帥が語る55の金言にあり。
はじめに
▼不況の時代だからこそ、希代の経営者鈴木敏文に学びたい この不況下でも、セブンーイレブンはなぜ、強いのか。 一店舗当たりの平均日販は六六万一〇〇〇円(二〇〇二年二月期)と、他の上場大手コンビニエンスストアチェーン七社の平均を一九万円も引き離し、中小チェーンも含めれば二〇万円以上の開きがある。 なぜ、これほどの差が出るのか。 セブンーイレブンの"実験場"でもある直営店には、同業者と思われる、“偵察者”の訪問が絶えないが、店舗だけ見ていても、その強さの秘密はわからない。 セブンーイレブンは、創業以来、三〇年にわたって経営の舵取りを続け、今も会長としてトップに立つ鈴木敏文氏(イトーヨーカ堂社長を兼任)の経営学が具現化されたものであり、その発想や考え方がコンビニ店という形で表現されたものである。 したがって、セブンーイレブンの強さは、その経営学の強さそのものにほかならない。 もし鈴木氏がまったく別の業界の経営者であったとしても、その会社はこの不況の中でも抜群の競争力を発揮していることだろう。 セブンーイレブンの経営は、ハーバードを始め、アメリカの著名なビジネススクールでもしばしば教材として取り上げられ高く評価されてきた。 流通先進国であるアメリカで、セブン-イレブンの”本家”にあたるサウスランド社が経営危機に陥ったときも、鈴木氏自らが指揮して立て直し、「日米逆転」をもたらした。 日本の消費市場は類を見ないほど商品のライフサイクルが短く、また、消費者心理に非常に左右されやすく、「世界で最も難しい市場」であるという。 鈴木氏の経営学は、「世界で最も扱いが難しい日本の消費者」を相手にして培われ、鍛錬されてきたものであり、それゆえに、米ウォルマートや仏カルフールなど、海外の巨大小売業が日本に次々と進出してきてもいっこうに動じる気配を見せない。 では、鈴木流経営学のどこが強いのか。 それは、アメリカ生まれの借り物の経営手法などではなく、ビジネスの最も根本的な部分で、ものごとをどのように捉え、どのように考えるべきかという発想法や思考法において、独自のものをつくり上げてきたことにある。 つまり、鈴木流経営学の最大の特徴は、その発想や思考のユニークさにある。本人は「あたりまえのことを言っているだけ」と言うが、われわれ凡人はそのつど、「自分にとって都合のよいあたりまえ」を使い分けてしまうのに対し、鈴木氏は「お客にとってのあたりまえ」に一貫してこだわり続けてきた。 この「あたりまえ」のことを実践するのは、実は簡単なことではなく、柔軟かつ多様な頭の使い方をしなければならない。 この頭の使い方を、分かりやすく、シンプルに説き続けるのが鈴木敏文という経営者なのだ。 昨今大流行のロジカルシンキングや論理的思考などは、そのワン・オブ・ゼムにすぎない。 料理に例えれば、材料の切り方程度のものだ。 大切なのは、どんな相手のどんな状態に合わせ、どんな材料を使って、どのような料理をつくり、どのように提供すれば、相手に喜ばれるかを考えることができるかどうかだ。 その発想法や思考法は、われわれのビジネスに広く応用ができる。 詳しくは本文で述べるが、例えば、「おいしいもの」と言ったとき、われわれは、「客が喜ぶ」「もっと食べたくなる」「よく売れる」「儲かる」……といった一面的な意味しか浮かべないが、鈴木氏は、「おいしいもの=飽きるもの」と捉える。 つまり、付加価値の高いものほど、お客にとって価値は逓減しやすい。 だから、「おいしいもの」をつくることができたと同時に、それに安住することなく、次の「おいしいもの」をつくり始めなければならない。 それができなかったのが、急速に業績が低下したユニクロの例だろう。 「おいしいもの=客が喜ぶ=儲かる」という考え方は論理的で、「A=B、B=C、ゆえにA=C」という三段論法そのものだ。 これ自体は間違っていない。 しかし、鈴木氏は「A=B」であると同時に、「A=notB」という面があることも発想する。 つまり、顧客における真実は一つではない。 論理思考力は現代のビジネスマンにとって、ものごとを分析したり、検証したり、あるいは、自分の考えを伝達するためには不可欠のものだが、変化の時代に必要なのは、論理思考力を身につけたうえで、さらに、そこから一つ突き抜けた発想力だ。
( 本書 はじめに より引用)
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