黄色い目の魚
著者

佐藤多佳子/著

出版社
新潮社
定価
本体価格 1500円+税
第一刷発行
2002/10
ISBN4-10-419003-9
マジになるのって、こわくない?自分の限界とか見えちゃいそうで。木島悟、16歳。

似顔絵は上手だが、サッカーはうまくない木島。イラストレーター兼漫画家の叔父の世話が唯一の楽しみで、あとはイヤなことばかりの村田みのり。自分さえ嫌いになりかけていた高校生達。でも、もう逃げない。マジになる。自分だけの“モチーフ”を見つけたから……舞台は鎌倉。こころに真っ直ぐ突き刺さる恋愛グラフティ。

りんごの顔

1
テッセイに会うことになった。
びっくりした。
考えたこともなかったから。
テッセイは俺の父親だ。
会ったことはない。
まちがい。
赤ん坊だったから覚えてない。
俺はずっとテッセイの悪口を聞いて育ってきた。
きっと、いっしょに暮らしていても、俺はテッセイのことをこんなにキョーレツに知らなかったかもしれない。
テッセイは、ロクデナシだ。
なまけものだ。
よっぱらいだ。
背骨のないクラゲ男だ。
世の中の悪いことは、みんなテッセイのせいだ。
すごいでしょ。
玲美はいっしょに行かないって言うんだ。
いつもメッチャ生意気なくせに、いざとなるといくじなしなんだよな。
母さんも玲美は行かないほうがいいって言うし、ほんとは俺も行かないほうがいいって思ってるのはわかってんだよ。
電話でしゃべった。
「好きなもの何?」
テッセイの声。
ふにゃふにゃしたやわらかい声。
俺は背筋がふるえる。
これが、ロクデナシというものの声なんだぜ。
「テレビとか何見る?アニメ?野球?」
「サッカー」
俺はぞくぞくしながら答える。
「サッカー?」
相手はなんか、うっとうしそうに繰り返した。
「Jリーグ?」
「そう」
「ヴェルディか?」
「まあね」
「じゃ、なんか、旗とか、かついでくワ」
とテッセイはだるそうに言った。
「新宿のアルタの前な。おまえ、俺、探せよ」
旗?何それ?ヴェルディのフラッグ持ってくるの?なんで?もし、俺がジャイアンツのファンだったら野球帽をかぶってくるの?
ヘンな奴。

 
 


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