情の力 日本人のこころ抄
著者

五木寛之/著

出版社
講談社
定価
本体価格 1500円+税
第一刷発行
2002/11
ISBN4-06-211380-5
「情」は「こころ」である。 極限を生きる100のヒント この1冊で「日本人のこころ」のエッセンスがすべてわかる

いまの日本人に大切なのは「情」ではないか。
 この一年くらい、私はくり返しこう書きつづけてきました。「情」は「こころ」です。情が欠けているというのは、すなわちこころが乾いてひからびていることなのです。
 理性的な「愛」というのは上半身ですが、本能的な「情」はいわば下半身でしょう。その上半身と下半身が一体になって、全人間的な感情としての「愛情」になる。「情」という言葉、つまり「こころ」が付くことによって、適度な湿度と重さが加わるのです。

 

●100のヒントの中から
・上半身が愛で下半身は情である
・もう少し感情的になったほうがいい
・深く泣くことのできる人だけが、本当に笑うことができる
・悲しみの水脈を掘り起こそう
・現世でプラスのものが、宗教ではマイナスになる
・1度降りてからでないと別の山には登れない
・こころ萎えるときには、大きなため息をついてみる
・「目覚めよ」よりも「眠れ」のほうが大事だ
・破滅しないために、休む
・自分の生きかたをうしろめたく思う人に
・人の死も少しずつ完成していく
・失うことの勇気、捨てることの勇気
・自分の運命の流れを感じ取れたら


著者紹介
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■五木寛之(いつきひろゆき)
1932年9月福岡県に生まれる。生後まもなく朝鮮に渡り1947年に引き揚げたのち、早稲田大学文学部露文科に学ぶ。その後、PR誌編集者、作詞家、ルポライターなどを経て、1966年『さらばモスクワ愚連隊』で第6回小説現代新人賞、1967年『蒼ざめた馬を見よ』で第56回直木賞、1976年『青春の門 筑豊編』ほかで第10回吉川英治文学賞を受賞。『青春の門』シリーズは総数2000万部を超えるロングセラーとなっている。
1981年より一時休筆して京都の龍谷大学に学んだが、のち文壇に復帰。代表作に『戒厳令の夜』『風の王国』『風に吹かれて』など。小説のほか、音楽、美術、歴史、仏教など多岐にわたる文明批評的活動が注目されている。近著に『蓮如――われ深き淵より――』『生きるヒント』シリーズ、『大河の一滴』『人生の目的』『運命の足音』3部作、『他力』『日本人のこころ』シリーズ、英文版『TARIKI』など。

まえがきにかえて

─ 未知の日本へ旅立つ前に ─
いま、私たち日本人のこころの状態は、未曾有の砂漠化が進んでいるように見うけられる。
現在のアフガンの荒廃した土地も、むかしから砂礫の地ではなかった。
そこは美しい瑠璃玉アザミや野生の花が丘に咲きみだれ、枝もたわわに果実がみのる豊かな桃源郷だったのである。
私をふくめて日本人のこころの砂漠も、かつては、ほとばしる清例な水と、篤い信仰心と、庶民大衆の自由独立の気風がみなぎる熱い列島だったはずだ。
この国は未知のワンダーランドなのである。
もちろんかつては前近代的な遺風が人びとをしばりつけていただろう。封建的な社会制度に苦しめられる民衆も、決して少なくはなかったはずだ。
平均寿命も短く、教育や福祉も普及してはいなかっただろう。
しかし、それでもなお私たちが歴史の教科書から教えられることがなかった、本来の日本人の、いきいきとした暮らしと精神が、そこかしこに土中の貴石のようにキラキラ光って見えるのである。
講談社から刊行された『日本人のこころ』シリーズ全六巻の仕事は、そのような現代の私たちが見失っている日本人の素晴らしい魂の原郷を足でたずね、それを多くの人びとに紹介することが目的だった。
その旅のなかで、私はなんど天をあおいで感嘆し、胸を叩いてため息をついたことだっただろう。
九州の「隠れ念仏」も、東北の「隠し念仏」も、広島の「家船」や「サンカ」の存在も、大阪の寺内町や、京都の前衛性や、差別制度の王城としての江戸・東京も、加賀の宗教コンミューンの歴史も、すべてが私たちの踏み入ることのない日本人の魂の、輝くばかりの原風景であった。
私たちは本当の日本を知らない。
かつてのみずみずしい日本人の暮らしを知らない。
いや、知らされてこなかったのかもしれない。
全六巻のシリーズをとおして、私はこれまで知らなかった、見えない国のすがたを描いたつもりだ。
しかし、その広大な未知の国を旅するためには、チチェローネ(水先案内人)が必要であるような気がする。
この『日本入のこころ抄─情の力』は、地図のない旅へ出発しようとする読者への、つつましいガイドブックでもある。
リーダーではなくナビゲーターとして、というのが私の年来の変わらぬ夢であった。
蓮如は言っているではないか。
「人は軽きがよき」と。
本も「軽き」が重要なのだ。
この「抄」を踏み台にして、『日本人のこころ』全体を遍歴することになるだろう未知の読者のかたがたに、あらためて旅立ちの合図と挨拶を送らせていただく。
どうぞ良い旅を!

著者

(本文 まえがきにかえて から引用)
 
 


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