恋愛の格差
著者

村上龍

出版社
青春出版社
定価
本体価格 1400円+税
第一刷発行
2002/10
ISBN 4-413-02153-3
競争社会の敗者に恋愛は可能なのか?  現代日本の「格差を伴った多様性」の中での、恋愛の可能性について書いている。

■目次
それでもわたしは幸せ、と言えるだろうか;結婚しなければ生きていけない女;「なぜ彼を好きなのか」答えられますか;自分を高く売れなければ意味がない;恋愛のリスクとコスト、そして利益;パラサイト・シングルに恋愛は可能か?;セックス、同棲、不倫…そのモラルと現実;「選ばれる」ことは本当にいいことか;果たしてその恋愛に希望はあるのか;自分をごまかす恋愛の結末〔ほか〕

■要旨

男に依存しなければ生活していけない女は、自分の運命を他人に託すことになる。それは多大なリスクだ。それでも、リスクを実感できる分、女の方が男よりも有利かも知れない。社会の階層化の影響は、どちらかというと女よりも男の方がシリアスだ。この本は、格差について書かれているが、格差を言い立てて、不安を煽るのが目的ではない。現代日本の「格差を伴った多様性」の中での、恋愛の可能性について書かれたものだ。

 

著者紹介
1952年長崎県佐世保市生まれ。武蔵野美術大学中退。76年『限りなく透明に近いブルー』で芥川賞受賞。メールマガジンJapan Mail Media(http://jmm.cogen.co.jp/)も配信中

 

それでもわたしは幸せ、と言えるだろうか

この人と結婚したいという男に巡り会いたいとは思うけど、とにかくどうしても結婚したいという風には思わない、ある若い女友達はそう言った。
今の女性の結婚観をよく表した言葉だと思う。
もしわたしに適齢期の娘がいて彼女に恋人がいたら、結婚して欲しいと思うだろうか。
結婚さえしてくれればいいとは思わないだろう。
法的に籍を入れたからといって何かが保証されるわけではないからだ。
わたしが適齢期の娘の親だとしたら、わたしは安心のために何を望むだろうか。
彼女に必要なものは何だろうか。
わたしが大金持ちで彼女に巨額の遺産を残してやればそれで安心するだろうか。
金はあるに越したことはないが、働く意欲を失い、寄ってくる男がみな遺産目当てではないかという猜疑心の虜になって逆に不幸になるかもしれない。
そう思って不安になるかもしれない。
申し分のない理想的な男と結ばれれば安心できるだろうか。
経済力も人間的魅力もあって、優しいフェミニストの男性と結婚してくれれば、それで安心できるだろうか。
離婚しても莫大な慰謝料が手に入る、そんな男だ。
だが、離婚したら、寂しい人生になるかも知れない。
子供が産まれていたら、一人で育てていくのはきっと大変だろう、わたしが親だったらそう思うかも知れない。
親なら誰だって子供に幸福になって欲しいと願っているだろう。
だがどうすれば幸福に生きることができるか、その答えは簡単ではない。昔、これからの女は大学を出ていないといけない、という考え方が一般的になった時代があった。
いい大学を出ていれば、万が一結婚できなくても働けるし、結婚の際にも有利だという理由だった。
同程度の容姿だったら、頭がいい女が選ばれるだろうと世の親たちは思ったのだ。

わたしの周囲の、結婚していない三十代の女性たちに、なぜ結婚していないのかと聞いたとき、結婚した友人が幸福そうに見えないからだ、という答えが多かった。
子どもには手がかかるし、自分の時間がない。
結婚してしばらくすると夫はかまってくれなくなる。

(本文P.10、11より引用)

 

 
 


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