おおきくなりません
著者

白倉 由美

出版社
講談社
定価
本体価格 1700円+税
第一刷発行
2002/10
ISBN 4-06-211396-1
35歳だけど 18歳。僕たちはゆっくり大人になる・・・・・。

「本当におおきくならない?」と訊ねると、おじさんは自信をもって、「おおきくなりません」と言った。僕はその夜ヒヨコを枕元において眠る。いつまでもおおきくならないヒヨコと大好きな夏の匂いに包まれて。そして僕は翌朝ビヨが冷たく、動かなくなっているのを見るのだ。

ああまた月をみている、と思う。
僕は四十二歳の、コ応」ミステリー作家だ。
名前は平野月哉。
コ応」というのは、遠回しにいうと本屋での本の動きかた(というか売れ方)がゆっくりなので、はっきりいえばあまり売れる作家ではないということだ。
売れない作家だからさぞかし暇かというとそんなことはない。
何しろ売れないので、山ほど書かないと生活がなりたたず、毎日仕事場にむかい、午前中から小説といえるような、いえないようなものを書いて日々をやり過ごしている。
僕はとりあえずミステリー作家ということに分類されているが、実はミステリーを一冊も読んだことはない。
このことは僕がすかしているからでも、負け惜しみでいってるのでもなく、僕はとてもせっかちな人間なので、ミステリーを買うと、まず始めにラストシーンを読んでもらうのだ。
ラストシーンのわかってしまったミステリーなんて面白くもなんともない(何故、「誰かに読んでもらう」のか、それは後で話そう)。

(本文P.7より引用)

 
 


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