悪の華
著者

新堂 冬樹

出版社
光文社
定価
本体価格 1700円+税
第一刷発行
2002/10
ISBN 4-334-92368-2
和製 ゴッド ファーザー

非常VS.非道!!二人の冷獣が繰り広げる、果てしない死闘。蹴落とされるのは、どちらだ。 今、もっとも 挑発的な作家・新堂冬樹が創り上げた、悲惨にして哀切なる巨編!!

序章


防弾仕様のアルファ・ロメオのリアシートから降り立ったガルシアの鼻孔を、果樹園から運ばれたレモンやオレンジの花が放つ甘酸っぱい芳香が愛撫した。
ガルシアにはその芳香が、死臭のように感じられた。
半世紀近くに亘って繰り返された血の粛清劇。
燦々と照りつける陽光も、風に身を委ねるエキゾチックなヤシの木の葉も、みる者の心を和ませるブーゲンビリアの花影も、死臭を消すことなどできはしない。
シチリア州、パレルモ市一ここでは、死だけが唯一真実を物語る。
政治家、弁護士、検事、司祭。
彼らが、正義を信じる心を喪失した市民に、己の身の潔白を証明できるの
はーマフィオソと命を懸けて戦っていると証明できるのは、屍となったときだけだ。
マフィオソ撲滅という偽善の剣を振り殴朋した何百という政治家や検事が、過去にどれだけ市民の期待を裏切ったことだろう。
マフィオソ撲滅という真実の剣を振り繁した何十という政治家や検事が、過去にどれだけ市民に惜しまれながら埋葬されたことだろう。
爆殺、銃殺、絞殺。マフィオソは、政府に、市民に永遠の忠誠を誓わせるために、どんなに厳重な警備で固める要人でも、どんなに人徳のある聖職者でも、あらゆる手段を用いて抹殺する。
それが正義の象徴である首相であっても、神の僕である司祭であっても、マフィオソに盾突く者は、マフィオソの要求に首を横に振る者は、マフィオソとの契りを破る者は、死の扉を開く選択肢しか残されていない。
着工三十年を経ても完成しない高速道路、船を接岸できない港湾、水を貯えられないダム、壮大華麗なギリシャ寺院の周囲に建てられた、六百棟にも上る不法建築ビルー政府は、用を足さない公共投資に金をバラ撒き、悪辣な事業主を経由してマフィオソの懐を潤わせた。

(本書 P.3より引用)

 
 


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