真珠夫人
著者

中島丈博

出版社
扶桑社
定価
本体価格 952円+税
第一刷発行
2002/07/10
ISBN4-594-03621-X
主婦にOLに話題沸騰中の「昼メロ」、ついにノベライズ化!

主婦にOLに話題沸騰中の「昼メロ」、ついにノベライズ化!
過酷な運命に翻弄されていくひとりの女性の、人生の変遷と
真実の愛、そして魂の救済を描く大河ロマン 


『真珠夫人』は、スーパーマーケットから主婦の姿が消える・・・昼ドラに縁の無いはずのOLにまで「毎日、予約録画して追いかけています」という熱狂的ファンが急増中ほど、話題になったドラマです。 主人公・瑠璃子は、元華族の娘で、幸せな人生が約束されているかに思われていました。しかし、時代や社会の波は汚れを知らない彼女を呑み込んでいきます。父の名誉を守るため、没落しかけた家を救うため、彼女は新興成金の妻となります。将来を誓った恋人との間は引き裂かれました。やがて、未亡人になった瑠璃子は、女の人生を歪めた社会に、そして、男のエゴに復讐するかの如く、自分の周囲に寄ってくる男たちを虜にしては、破滅させていく妖婦と化していきます。

下巻は7月下旬発刊予定

 

中島丈博(なかじま たけひろ)
1935年京都生まれ。疎開先の高知で育つ。
シナリオ研究所に第一期生として入り、橋本忍氏に師事する。
62年、東宝映画『南の風と波』でシナリオ・デビュー。
日活専属ライターをへて、現在に至る。

主な映画作品、『赤ちょうちん』『津軽じょんがら節』『祭りの準備』『あ、春』など。主なテレビドラマ作品、NHK大河『草燃える』『炎立つ』『元禄繚乱』、銀河『青春戯画集』など。著書に『野蛮な詩』、監督作品に『郷愁』『おこげ」がある。

キネマ旬報脚本賞、芸術選奨文部大臣賞、第八回向田邦子賞受賞、紫綬褒章受賞。

 

唐沢家の別荘番

「直也さん、よくって。最初は銀座よ」

目白の家を出るとき、迎えにきた杉野直也に瑠璃子は念をおした。円銀座』が意味するものを、直也も了解している。
そこに瑠璃子がいきつけの洋装店があり、ウェディング・ドレスを注文したことを聞かされていた。
店に入ると、瑠璃子はデザイナー女史に迎えられて、さっさと二階の縫製室に入り、直也は階下の店内にひとり残された。
飾り棚にはさまざまなアクセサリーが並べられてある。とりわけパールのネックレスが美しい光沢を放っていて、直也は目を奪われた。
こんなネックレスで瑠璃子の細く優雅な首筋を飾れば、きつと似合うに違いないと空想しながら眺めていると、瑠璃子が階段をゆっくり下りてきた。
「いかがかしら、直也さん?」
瑠璃子は輝くようなウェディング・ドレスを身にまとっているのだ。澄まし込んだ表情だが、笑いをこらえているのが感じられた。
「もう?もうできたのか」
擁也の声がうわずる。
「これはね、ほかの方の仮縫いなのよ。先生が着てみたらっておっしゃるから」
「縞麗だよ。それ、よく似合うよ……いいよ。最高だよ」
あまり興奮してはみっともないと思いながら、つい口調が熱くなる。
瑠璃子のそばでデザイナー女史がニコニコと微笑している。
「じゃ、このタイプでつくっていただこうかしら」
瑠璃子がデザイナー女史を振りかえった。
そんな仕種の瑠璃子が美しいと思う。
あまりゴテゴテした飾りがなくて、すっきりとしたラインで上品にまとまっている。このウェディング・ドレスに似合うのはやはりパールだ。
なにがなんでも純白の真珠のネックレスで飾られなければと、直也は強く思った。
昭和二十六年一月半ばの銀座通りは、戦後の復興を迎え、活気づきはじめていた。
しかし、寒波の襲来で進駐軍のアメリカ兵と日本娘のアベック以外は、みな寒そうに背をかがめてうつむき加減に歩いている。
瑠璃子と直也は寒風の中をつかず離れず歩きながら、心も躰もあたたかだった。
ふつふつと湧き起こる幸福感に包まれて、ふたりは外気の寒ささえ感じない。
結婚式は四月半ばと決めていた。
瑠璃子の父唐沢徳光は元華族出身の参議院議員である。
先祖は一千石取りの旗本で、明治期の華族令により子爵となった。戦後は華族もなにもなくなってしまったけれど、その誇りは今も唐沢徳光の体内に脈々と生きている。

(本文P.6、7より引用)

 

 
 

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