弟の家には本棚がない
著者

吉野朔実

出版社
本の雑誌社
定価
本体価格 1300円+税
第一刷発行
2002/05/25
ISBN4-86011-012-9
またしても、本を抱えて終夜。

読んで語って夜は更ける
── あぁ愉しからん哉、読書かな。

ネットで見つけた「酸素男爵」ってなんの本だろう。品切れ
で入手できないものだから、友人知人の間では勝手に妄想は
膨らむ一方で……。
俳句短歌に怖い小説、競馬小説と映画の本。仕事場で飲み屋
で打ち合わせの喫茶店で、今日も盛会読書交友。
好調マンガ読書エッセイシリーズ「吉野朔実劇場」第3弾!

「星の王子さま」に関する二、三の秘密

─私はこの本をいったい何冊買ったことでしょう。

いつもは忘れています。
好きな童話は?と聞かれた時、真っ先に「星の王子さま」!!と答えるわけでもありません。
それなのに、たまにふと読みたくなってしまうのです。
「星の王子さま」の事なんかすっかり忘れた頃に。
そういえば、どんなお話だったっけ?
確か実家に帰れば何処かにあるはずなんだけどなあ、いや引っ越してからも、確かに少なくとも一度は買っているはずと思いながら、でもまあいいや、読んで気が済んだら誰かにあげればいいや。
あれは上等の万年筆のようなもの。
たとえば友達に、友達の子供に、お誕生日や入学記念に、この本をもらって怒る人はいないだろうとかなん
とか自分に言い聞かせながら、つい何度も買ってしまうのです。
で、気が付くとやっぱり自分の手には残っていない。
もともと読んだ本を手元に置いておこうという執着心は薄いのですが、案外この本がベストセラーであり続けているのは、私のようにひとりで何度も買っている人が多いからかもしれません。
本当のことをいうと初めて読んだ時、あれは確か小学校の高学年です。
あまり面白いとは思いませんでした。
難しかったし、うわばみだのバオバブだの得体の知れない怖そうなものばかり出てきて、やっときれいなお花が出たと思ったら、こいつの性格がまた悪くて。
最後まで読まなかったような気がします。
中学生になると、夏休みの100冊とかに入っていて、感想文を書かされるうちの一冊になっていました。
当時あまり本を読む人間ではなかった私は、「赤と黒」や「吾輩は猫である」より薄いし、絵が入っているという理由で、今度は最後まで読みましたが、やはりあまり好きにはなれません。
でも皆は「星の王子さま」は名作だと言う。
心の本だと言う。
面白くなかったとはとても言えません。
言えば自分が鈍い人間だと思われてしまいます。
秘密にしておこうと思いました。
急にこの本の評価が上がったのは、本を読み始めた高校生の頃でしょう。
寂しいものにうっとりするお年頃。
へたうま絵の元祖みたいな、白目の王子様がかわいく思えるようになりました。
本の中では、大事なものは目に見えないとか、大人には大事なことが解らないと言っています。

(本文P.6、7より引用)

 

 

 

   

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