チャイナ・インパクト
著者
大前健一
出版社
講談社
定価
本体価格 1600円+税
第一刷発行
2002/03/29
ISBN4−06−211152−7
衝撃の書 中国経済の読み方を 根底から覆す!

中国は完全に目覚めてしまった。
「眠れる獅子」と呼ばれた時代は、沿岸部にかぎっていえば、すでに過去のものとなっている。
一二億人を超える人口を背景にした安価で良質な労働力と、最新鋭設備を取り入れた産業基盤を背景に発展する中国経済の力強さは、もはや疑いようがない。

 

 


プロローグ

中国は完全に目覚めてしまった。
「眠れる獅子」と呼ばれた時代は、沿岸部にかぎっていえば、すでに過去のものとなっている。
一二億人を超える人口を背景にした安価で良質な労働力と、最新鋭設備を取り入れた産業基盤を背景に発展する中国経済の力強さは、もはや疑いようがない。
圧倒的なコスト競争力が引き起こす価格競争から、日本企業だけが逃れることはできないし、かといってこれと正面からぶつかっても勝てる見込みはまったくないのだ。
「世界の工場」として注目が集まっている中国だが、世に出回っている中国関連の記事や著作を見ると、そのスタンスには非常にばらつきがあるのがわかる。
中国脅威論や中国進出マニュアル、さらには中国の崩壊を予言するようなものまで幅が広い。
成長する中国をどう受け止めていいのか、判断をつけかねているという印象だ。
それを反映してか、日本側の中国に対する態度もさまざまだ。
中国をもっとも利用し、成功した日本企業は、おそらく「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングだろう。
自前で商品開発や販売を手がけ、製造は中国の委託工場に任せてしまう。
中間業者を入れないため、製造コストやマージンを低く抑えることができる。
こうして、低価格でそこそこの品質の製品を大量に日本に供給することを可能とし、消費者からの圧倒的な支持を獲得した。
ユニクロも今では追いかけられる立場となったが、中国の競争力を自社の費用構造の中に取り入れる、いわゆる「ユニクロ化」戦略は、日本の企業社会にあっと言う間に定着してしまった。
ホンダの展開もユニークだ。
ホンダはこれまで、日本製オートバイのコピー製品に苦しめられてきたが、なんとそのコピー製造の元締め会社と合弁を始めてしまった。
模造車の品質が上がってきたことに着目し、その低コスト開発から学ぼうという、これまでとは全く逆の発想をしたのだ。
三洋電機は、「中国の松下」の異名を取る家電メーカー・海爾と提携し、家電製品の相互販売をおこなうと発表、新聞でも大きく報じられた。
三洋は、海爾の販売網を使って中国で売り込みをおこなう一方、日本においては合弁会社を設立し、海爾ブランド製品の販売を手がけるとしている。
日本の大手メーカーで、中国ブランドの製品を扱う会社を設立するのは三洋が初めてだ。
だがこうした例は、まだまだ少ない。
長ネギやシイタケにセーフガードが発動された例を見ればわかるように、日本はいまだ中国を市場や職を奪う脅威としか見ていない。
何かあったら政府に泣きつき、自分たちの市場を守ってもらう。
そういった発想からの転換ができずにいる。
しかし、こうした見方は表層的だ。
日本に流入してくる中国産の工業製品や農作物は、実は中国に進出した日本メーカーや、開発輸入を得意とする日本の商社が持ち込んできている。
つまり
「世界の工場」を利用した日本企業が、利用していない日本企業に攻め込んでいるという構図なのである。ユニクロの例がまさにこれだ。
だから、中国脅威論に凝り固まっているかぎり、本当の中国の姿は見えない。
日本は、もっと中国を利用しなくては、市場での競争に勝てなくなりつつあるのだ。
では、中国の本当の姿とは何か。
この巨大な国家は、政治的にはまだ北京の中央集権国家なのだが、経済的にはすでに別の国に生まれ変わってしまった。
朱鎔基が首相になって始めた改革により、経済面では地方に権限が委譲され、実質的には連邦制の統治機構になってしまった。
その中でも特に発展し、経済的な自立を果たしているのが、「東北三省」「北京・天津回廊」「山東半島」「長江デルタ」「福建省」「珠江デルタ」という、沿岸部の六つの地域である。
これらの地域は、それぞれが独自性を持って発展しており、独立性が高い。面積や人口、経済力からみても、中国の一部というよりは、一つの国家として認識したほうがより正確に把握できる。
私はこれらを「メガリージョン」と呼んでいる。
地域=リージョンの枠を超えたメガ地域という意味である。
本書では、この六つのメガリージョンを重点的に取り上げていく。
中国は、このメガリージョンが互いに競争しながら、外資系企業を呼び込み、その力を借りながら経済発展するという、いわゆる貸席経済で伸びてきた。
世界をよく見れば、繁栄している国というのは、アメリカを筆頭にすべて貸席経済の国ばかりだ。

 

 

 

 

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