ありすぎる性欲、なさすぎる性欲
著者
ウィリー・パジーニ
出版社
草思社
定価
本体価格 1500円+税
第一刷発行
2002/04/15
ISBN4−7942−1130−9
謎に満ちた 欲望の招待!

セックスレスのカップルが話題になる一方で、強迫観念にとりつかれたようにセックスに執着する人々も目立つ現代社会。私たちは消費社会の波に飲み込まれて、バランスのとれた性のあリ方を見失ってしまったようです。男と女の関係を血の通ったものにするにはどうしたらいいのでしょうか。イタリアの著名なセックスカウンセラーであり、ヨーロッパ性科学者連盟会長もつとめる著者が、これまでに診てきた患者たちの事例をもとに、「正しい性欲」のあリ方を指南します。

 


はじめに

上手なスピーチは、ミニスカートに似ているといえます。
「肝心な部分」を隠すためにはほどほどに長くなければなりませんが、興味をもたせるためには、かなり短くする必要があるのです。
人間の性欲についても、これと同じことがいえます。
ほどよいバランスこそが大切なのです。
ところが、いまや人間の性欲は、まるで「焼けついて動かなくなったピストン」のように思われます。
性的衝動がなくなってしまって少しも性欲の湧かない人
たちと、逆に性犯罪者のように強迫観念にとらわれた過度の性欲の持ち主ばかりなのです。
本来なら、私たちにエネルギーをくれるはずの性欲が、さまざまな他の欲望によって弱められています。
社会全体が消費欲、物質欲などに侵されているのです。私たちは社会からさまざまな影響を受けています。
当然ながら性欲もますますその影響を受けるようになっています。
性欲は、もはや個々人の感情と結びついたエネルギーではなく、商品や消費財と結びついたエネルギーになってしまっているのです。
商品のコマーシャルは、わずかなイメージの中に重要なメッセージを凝縮していますが、それはしばしばみずからの品位を下げてしまっています。
たとえば、いまや週刊誌の表紙を飾るのに不可欠な女性のヌードを考えてみても、いかがわしいイメージを前面に押し出したものが流行しています。
欧米の社会は、私たちを永遠に飽くことのない消費者に変えてしまいました。
そして、ついには人間にとってもっとも重要な欲望、つまり、他の人に近づき、親しい関係をもとうとする欲望が、他のさまざまな欲望によって沈黙させられるようになったのです。
この傾向は徐々に拡大しつつあります。
セックスは満足を与えてくれるどころか、夫婦間に不
和の種をもたらすものだから、なるべく避けたほうがよいと考える人が増えています。
新聞紙上でも「セックスレスの夫婦生活に身を潜める人びと」というようなタイトルが踊っています。
このような状況は、宗教的な理由から不健全といってもいいほど禁欲的な人びとにだけ当てはまるものでしょうか?もちろん、そうではありません。
堅い絆で結ばれた平穏な夫婦関係をこわさないために性欲を捨て去ったマリアという女性のケースは象徴的です。
彼女の場合、「女癖の治らない」浮気ものの夫との夫婦生活において、セックスが苦悩の種になったのです。
夫の浮気を見つけたとき、彼女はまだ幼い子供たちのことを思って、夫との性的な関係をいっさい断ち切って、嫉妬にわずらわされることのない平穏な夫婦生
活を送ることを選択しました。
こうした世界の対極には、秩序とルールを失って、抑えのきかなくなってしまった性欲の世界が存在しています。
たとえば、女性に対する職場でのセクハラが第一にあげられます。
しかし、セクハラは女性側が泣き寝入りしている場合が多く、その実体も報道されることが少ないのが現状です。
とくに性的暴力の対象となっているのが子供たちです。
自分の身を守ることができず、心理面でも無防備な未成年であればこそ、問題はいっそう深刻になってきます。
これまで水面下に隠れていた小児性愛は増えるいっぽうです。
家庭でも近親相姦などの性的な暴力がますます広まってきています。
こうしたことは、ほんの氷山の一角にすぎません。
私がカウンセラーとして相談を受ける席でもしばしば話題になりますが、性のことで悩んでいる人はかなり増えているようです。
夫婦についていえば、妻の側の欲求を無視して、ただ自分の欲望だけを満たそうとする独りよがりの男性たちを嘆く多くの声が聞こえてきます。

(本文 まえがきより引用)

 

 

 

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