いじわるな遺伝子
著者
テリー・バーナム/著 ジェイ・フェラン/著 森内薫/訳
出版社
日本放送出版協会
定価
本体価格 1600円+税
第一刷発行
2002/01/25
ISBN4−14−080660−5
気持ち・いいこと・だけしたい 心とからだの秘密

■目次
最強の敵は自分自身;第1部 太れないサイフと痩せられないカラダ(お金―気前よくダーウィン銀行へまっしぐら;脂肪―人間にエサをやらないで);第2部 欲望の列車はどこまでも(ドラッグ―快楽への近道;リスク―遺伝子がスリルを求めてる;欲望―走れ!走れ!幸せの踏み輪の上を);第3部 恋愛と生殖(性―女の子VS男の子;美しさ―それは皮膚よりも深く;浮気―ひとりだけを愛したいのに);第4部 家族、友人、そして敵(家族―私を縛る絆;友と敵―友を近く、敵をさらに近く);消えない欲望

■要旨
やせたいのに、つい甘いものに手が出てしまう。貯金するつもりでいたのに、気がつくと給料を全部使い切っている。浮気ぐせがなおらない。禁酒禁煙もジョギングも続いたためしがない。これらはすべて遺伝子の生き残り戦略だ。私たちの心とからだを操る遺伝子の働きと、それを手なずける方法を教えてくれるのは、アメリカで注目されている新進気鋭の経済学者と生物学者の名コンビ。しっかりとした科学的な裏づけで、私たちの日常生活を例にとり、本能的な行動に明確な意味づけをしてくれる。意志の弱さを嘆く前に、その仕組みのウラをかいて「いじわるな遺伝子」を見返してやろう。

 

 

序章

最強の敵は自分自身

この本をあなたの脳の取扱説明書だと思ってほしい。
せっかく買った車や電子レンジに取扱説明書がついてこなかったら、だれだってだまされたような気がするだろう。
ところが、私たちにとっていちばん大切な持ち物─つまり体と心─にそんな説明書はついていない。
それで、扱いに困った人々はやみくもに満足感を求めることになる。そ
れはほんのちょっと体を動かすことだったり、十三分間セックスだったり、あるいはおまけつきのハンバー
ガーだったり、酒やスポーツカーだったりする。
本書はその失われた説明書であり、私たちが自分の人生をうまく操れるようにするためのものだ。
車を運転したり電子レンジを使ったりするとき、私たちの命令は私たちの思いどおりに実行される。
機械が口答えをしたり、自分勝手に行動することはない─少なくとも今のところは。
いっぽう、たとえば私たちが新年の決意として「太りやすい食べ物は厳禁!」と自分の脳に言い渡しても、脳はきっとからからとそれを笑い飛ばす。
そしてデザートを載せたワゴンが運ばれてくるや、いつものようにさあお食べとはやしたてるはずだ。
私たちの脳は、良くも悪くも、従順なしもべではない。
脳には脳の心があるのだ。
自分がほんとうはふたつの存在であると、考えてみてほしい。
あなたという人格には、好き嫌いもあれば、欲望や夢
もある。
けれどその体の中には、脳という一種の“機械”が入っている。
脳とその持ち主は始終対立する。
そして勝つのはたいてい、脳のほうだ。
なぜ、そのふたつのあなたは意見を同じくできないのだろう?
なぜ、自分の行動を自分でコントロールするために闘わなくてはいけないのだろう?
そしてなぜ、この闘いに勝つのはこんなに困難なのだろう?
犬や猫は、「○○をどうしてもやめられない」「体重を減らせない」「パートナーだけを愛さなくてはいけないのに」などと思い悩んだりするのだろうか。
チンパンジーは、「もっと人のためにならなくては」と事あるごとに心に誓ったりするのだろうか。
キャンプファイヤにつきものの怪談に、ベビーシッターがひとりで留守番をする家に脅迫電話がくるという話がある。
恐怖におびえたベビーシッターは警察に通報し、警察は電話に逆探知器をつける。
そしてふたたび恐ろしい電話がきたあと、警察からあわただしく電話が入る。
「外に出て!」警官は叫ぶ。
「電話の逆探知に成功しました。犯人はその家の中にいます!」
この話と同じように、自分をコントロールできない原因は私たちの内部に、私たちの遺伝子の中にある。
そこから逃れたり、どこかに置き去りにしてしまったりはできない。
巧みなメディアや強欲なビジネス、そして友人や家族さえもが、私たちの内なる魔物を肥やす役目を果たすこともある。
だが、セルフ・コントロールの問題の大半は、私たちの本能に原因がある。
自分にとっても愛する人にとってもよくないことをついしてしまうのは、私たちにもともと備わった本能のせいなのだ。
本屋にちょっと足を運んでみれば、私たちの闘いの中身がよくわかる。
ベストセラーの棚をざっと見渡せば、人々がどんな悩みを抱いているかは一目瞭然だ。
「どうすれば愛を見つけられるか」
「どうすれば体重を減らせるか」
「どうすれば富を築けるか」を教える本は山のようにある。
いっぽう、『ビール腹の肥やし方』『お金が見る間になくなる10のステップ』『あなたの内なる浮気心を育てるには」
などと題する本はどこを探しても、まるでしめしあわせたように見当たらない。
なぜこんなふうに、なんの苦もなく自然にできる行動と、たくさんの努力を積まなければ達成できない行動とがあるのだろう。
それは遺伝子が私たちを、そういう弱点を持つように仕組んでいるからだ。
新聞には毎日のように、「アルコール依存症の遺伝子」「老化の遺伝子」などの発見を告げる見出しが躍っている。
これらから明らかなのは、人間の生態や疾患が遺伝子によって大きく左右されているという事実だ。
しかし遺伝子が私たちに与える影響は、これらの記事が伝える以上に広範にわたっている。
人が純粋に自分の自由意志で行っているつもりの事柄さえも、じつは遺伝子という舞台の上で踊らされているにすぎない。
過去二、三十年にわたり、科学者はこの舞台の構造についてたいへん多くのことを学んできた。
ヒトゲノムの研究が進むにつれ、そうした流れはますます加速するだろう。
本書を通して私たちは、遺伝子が人に及ぼす影響について現在までにわかっていることと、それらが人々の日常生活にどんな意味をもつかをさぐっていく。
一例を挙げてみよう。
「美しさ」とはなんだろう?そしてその基準はだれが設定するのだろう?これはむずかしい問いで、多くの先人が答えを模索してきた。
ある人々は、「美しさ」とは神秘的で神聖なものであり、人間ごときの理解を越えたものだと考えた。

本文P.7〜9より引用

 

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