ぼくの神さま
著者
ユレク・ボガエヴィッチ/脚本 酒井紀子/〔ノベライズ〕編訳
出版社
竹書房文庫/竹書房
定価
本体価格 590円+税
第一刷発行
2002/03/06
ISBN4−8124−0870−9
どんな時でも、どんなに苦しい事があっても、生きる事に負けない子どもたち。 ・・涙が出ました。 竹下恵子・・ ハーレイ・ジョエル・オスメント主演最新作!

1942年の秋、ナチス占領下のポーランドでは、ユダヤ人の強制連行が始まっていた。
クラクフの街に住む11歳のユダヤ人少年ロメックは、愛する両親と別れ、ひとり田舎の村に隠れ住む。ロメックを預かった農夫グニチオにはふたりの息子がおり、兄ヴラデックは当初ロメックを嫌い高圧的な態度を取るが、 幼い弟のトロは彼を慕うようになる。別れた両親への思いを胸に秘めながらも、ヴラデックやトロ、両親をなくした大人びた少女マリアとともに、徐々に村の生活にとけ込んでゆくロメック。しかし、ナチスの侵攻は村にまで伸びてきていたのだった・・・・・・。戦争という厳しい状況下を懸命に生きる子どもたちの姿を描く、感動のストーリー。

 

3月2日より日比谷スカラ座2ほか全国東宝洋画系ロードショー!!

映画情報サイト http://www.gaga.ne.jp/boku/

配給=ギャガ・コミュニケーションズ

 

序章

僕が幼い頃に感じた、初めての怒り、切たさ、美しさ、苛立ち、恐怖、愛情。これらはやがて、時の魔術師の錬金術によって幾度も丹念に精錬され、いつしか一つの聖画像を形作った。
いわば、この記憶のエッセンスは今、極彩色に彩られた夢の断片のようであり、芳しい香りを漂わせる木蓮の花びらのようでもある。
十一歳の夏、僕はこのイコンの原型に確かに触れた。
残酷に削られていく揺りかごの中から、僕は僕と同じように未熟で脆弱た世界を垣間見、父母の笑い声の代わりにナチスの冷たい靴音を聞いた。
何もかもを失い何もかもが変化しようとしている、その時に、ただ為すすべもたく。
しかし、生か死か、突きつけられた選択は僕の心を苛んだあげく、無限の世界へ解き放った。
子供しか住むことのできたい不思議な桃源郷へ。
僕は、まだほんの子供だった。
良くも悪しくも、ちっぽけな十一歳の少年で、嵐に舞う木の葉よりも、地を這う虫たちよりも無力な存在だった。
そして、信じられたいほどに無垢だった。
世の中が赤黒くただれていくにつれ、たぜか心だけは透明度を増していく。
死を身近に感じれば感じるほど、一日の密度は濃くたっていく。
月の光、花の露、友達の笑顔、小川のせせらぎ何もかもが鮮やかで、それでいて暗い哀しみを秘めていた。
償いと感謝をこめて、僕は、その一日一日の記憶を呼び起こそう。
あの十一歳の夏。僕が生きた証、僕が僕であることができた理由を、もう一度しっかりと心に刻んでおくために。


 

 

 

 

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