アメリカン スウィートハート
著者
H・B・ギルモア
出版社
ヴィレッジ ブックス/ソニー・マガジンズ
定価
本体価格 650円+税
第一刷発行
2002/02/09
ISBN4−7897−1820−4
最高にキュートな ラブ・ストリーリー! 恋した人は大女優である姉の夫・・・かなわぬ恋の行方は!?

キキ・ハリソンは、大物映画スターの姉グウェンの付き人として忙しい毎日を送っている。ゴージャスな容姿とワガママな性格で常に周囲の注目を浴びる姉のグウェンとは対照的に、キキはおとなしく控えめで、いつも姉の面倒を見ていた。そんなキキが密かに想いを寄せているのは、グウェンの浮気が原因で別居中の夫、超人気スターのエディ。グウェンに冷たくされて傷心のエディを励ますうちに、ふたりの仲は急接近していく。ある日、とうとうキキは決断した―やせてキレイになって、エディに想いを伝えよう、と。最高にキュートなラブ・ストーリー。

 

 

1光と影

その朝、目覚めたとき、キキ・ハリソンがまず頭に思い描いたのは、いつものジェリースプレッドたっぷりの分厚いトーストではなかった。
ひとりの男の顔……。打ちひしがれ、飲んだくれている男の顔だ。
男は、キキの姉グウェンと別居中の義理の兄エディだった。
エディ・トーマスとグウェン・ハリソン。
ふたりはハリウッドきっての大物スター同士のカップル。
驚異的な興行成績を記録した映画『グレッグとペグの秋』の共演が縁で結ばれて以来、一〇年間にわたってつぎつぎとコンビ作をヒットさせ、絶大な人気を誇ってきた。
名声、富、才能のすべてを手中に収めたふたりは、"アメリカの理想のカップル”としてハリウッドの頂点に君臨しつづけていた。
キキは、グウェンが女優への道を歩みはじめてからずっと、姉の付き人という立場を余儀なくされてきた。
自己中心的で”超”がつくほどわがままなグウェンの付き人は、ハリウッド広しといえど、そうざらには見つからない。
それはグウェン自身もよく心得ていて、だからこそ妹に白羽の矢を立てたのだ。
彼女にとってキキは、子供の頃から何でも命令できる便利な存在だった。
物心ついてから三〇年余り、キキの人生は、二つ年上の姉グウェンに支配されてきたと言っても過言ではない。
どこに居ようとも「キキー!」という姉の金切り声がとどろくやいなや、何をさておいても馳せ参じなくてはならなかった。
たとえ真夜中だろうが、バスルームで用を足している最中だろうが、あるいはこっそりと大好きなチョコレートケーキを頬張っていようが、お構いなしだ。
グウェンは自他ともに認める美人だった。
彼女に笑顔を向けられたら、どんな男もたちまち虜になってしまう。
つややかなブルネットの長い髪と、強い光を放つダークブラウンの大きな瞳、ふっくらとした魅力的な唇、淡い金色に輝いて見えるすべらかな肌。
しなやかで優雅で、あるときは愛らしく、またあるときはセクシーにと、その美貌を武器に自由奔放に振
舞ってきた。
姉のきわ立つ美しさの前に、妹のキキの存在がかすんでいたことは否めない。
圧倒的な美のパワーを放ち、常に脚光を浴びつづけるグウェンの陰で、キキはいつも我慢を強いられていた。
グウェンは何でも持っていたにもかかわらず、キキが気に入ったものや欲しいものは、口に出して言ったとたん、奪われてしまった。
思春期になってからは、ボーイフレンドでさえ例外ではなかった。
争ったところで勝ち目はない。
さらに傷つくだけ。
いつしかキキは、自分の思いは胸の奥深くにしまい込み、感情を面に表さないようになっていた。
そうして姉のすべてを受け入れてきたのだ。
唯一、姉の理不尽な干渉を受けなかったのは、食べること。グウェンは常にプロポーションを気にしていたから、キキが満たされない思いを食欲に向け、徐々に太っていく様子を、むしろ持ち前の意地の悪さで楽しんでいたようだ。
ハイスクールを卒業してまもなく姉の付き人をするようになって、キキの体重はさらに増加した。
一七三センチと長身の彼女だったが、七五キロを超えたときには、さすがに危険信号が頭のなかで点滅した。
もちろんダイエットも試みた。
だが姉がスターへの階段を登るにつれ、キキのストレスは増し、大好きなチョコレートケーキが手放せなくなった。
一時的に体重が減っても、すぐにリバウンドしてしまう。
そしてついに八○キロを超えてからは、彼女がヘルスメーターに乗ることはなかった。
ハリウッドには、平均体重より少なくとも五キロやせていなくてはならないという暗黙の了解があった。
標準の体重で映画に出るスターなど、ほとんどいない。
実際、皆、専属の栄養士まで雇ってダイエットに苦労している。グウェンもさらなる完壁さを求めて常にダイエットを心がけ、顔にも若干の人工的な修正を加えて、その美しさにますます磨きをかけていた。

 

 

 

 

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