精神科に行こう
著者
大原広軌 /著 藤臣柊子/マンガ
出版社
情報センター出版局
定価
本体価格 1200円+税
第一刷発行
1999/04/24
ISBN4−7958−2932−2
ストレス山積、眠りが浅い、失恋で涙ナミダ、疲れる、落ち込む・・・そんな時は気軽に通っていいんです。

■目次
1 突然の暴風域突入!!(あなたも思い当たるでしょ?;怒り狂う心臓 ほか);2 治療法バトルロイヤル(人それぞれの対処法;ラッパ呑み『泥酔療法』 ほか);3 精神科スゲェぞ日記(精神科ってこんなトコロ;感情タレナガシとものすごい鬱 ほか);4 クスリを巡る人々(仲間ってヤツはいいヤね;『取り返しのつかない行動』とは?―クスリA to Z ほか);5 高い空(春先のローテンション;自殺事件 ほか)

■要旨
診察で何を聞かれるか?カネは高いのか?クスリは効くのか?コワい、アブナい、戻ってこれない、そんなイメージを根こそぎくつがえす爆笑精神科通院日記。

 

 

 

丘の上のT病院

「こんなことならもっと早くきてりゃよかった」
初のパニック発作からちょうど一年目に訪れた精神病院で初診察を終えた私は、清潔でやけに居心地のよい待合室で薬の順番を待ちながら、ボソッとつぶやいた。
一九九七年一〇月二一日のことである。
数ヵ月前からこの日まで、私の精神バランスは、今年の七月に天から降ってくるらしい門恐怖の大王』にすら同情されかねないような状態だった。
某月某日、都内を西に向け愛車スーパーカブを走らせている最中、イキナリ涙が溢れだす。
涙はとどまるどころか小便並みに流れだし、鳴咽を上げながらの走行となった。
と、はるか向こうに赤く光る誘導灯が見える。
検問だ。
「飲酒運転の検問でーす。呑んでますかあ」
という質問に、無言でしゃくり上げる私。
「な、なんだお前、泣いてんのか?」
それは警官もアセるだろう。大のオトナが泣きながらバイクを運転しているという状況は尋常ではない。
私はしゃくり上げながらこう答えた。
「泣いちゃいけないって言うんですか!この国は泣くのも自由にできないって言うんですか!」
今となっては冗談のような話だが、本当にこう言ったのだ。
ムチャムチャとしか言いようがない。
世が世なら、公安にマークされてもおかしくないキレかただ。
幸い、その警官はとてもよくできた人だったので、
「いろいろあるからね、前向きにな、しっかり気をつけてな」
と私にひとことかけただけで解放してくれた。
またある日は、電車の中で母親にあやされている乳幼児を見て、
「オレにもあんな時期があったはずなのに、今ではすっかり頭が侵されてしまいましたよ、ママ、ドゥユリメンバー」
と思って泣き、その翌日にはジャイアント馬場のリング上での芸術の域にまで達した古典芸能的なファイトに、
「馬場さん、ボクはもう気が狂ってしまいました、馬場さんはつつがなくお幸せに」
と涙する。
一人でカラオケボックスに入れば『ペガサスの朝』なんてな曲をテーブルの上に立ち大泣きしながら大絶唱、それを注意しにきた店員に向かい、チューハイのグラスを投げつけ怒り狂うなんてこともあった。
自分でも脳の回路がどうなってしまったのかサッパリわからない、とにかく外部からの刺激に涙腺と堪忍袋の緒をゆるませ続けた私だった。
意を決して訪れた丁病院、小高い丘の上に建つその建物は、田宮二郎主演の『白い巨塔』を思い出させる。
「そういえば彼も最期は自殺だったな……」
彼も、ってなんだ。
私も、ってことか?
どうも油断すると、気分がマイナスのほう、マイナスのほうへと傾いてしまう。
『自殺』『殺意』等、『殺』のつく言葉、とりあえずは自分の中で禁止だ。
はじめて万引きした時よりもギコチナイ動きと不自然な表情をもって診察室に入った私、それまでけっこう『医者運』がよくなかったこともあり、『最後の砦』とまでに思い詰めて足を運んだこの病院で、失礼な医師に木で鼻をくくったような態度でも取られようものなら、ボディーに二、三発、『三年殺し』の正拳突きでも入れてやろうなどと考えていた。

本文P.5.6.7.8から引用

 

 

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