エナメルを塗った魂の比重
著者
佐藤知哉
出版社
講談社NOVELS/講談社
定価
本体価格 1050円+税
第一刷発行
2001/12/5
ISBN4−06−182210−1
青春は美しくない。私の場合もそうだった。二年B組に現れた転校生。構内で発生した密室。それらを起点として動き出す、不可解な連中。コスプレを通じて自己変革する少女。ぐちゃぐちゃに虐められる少女。人間しか食べられない少女。ドッペルゲンガーに襲われた少女と、その謎を追う使えない男。そして・・予言者たち。その果てに用意されたのは、やはりあの馬鹿げた世界。


青春は美しくない。私の場合もそうだった。二年B組に現れた転校生。校内で発生した密室。それらを起点として動き出す、不可解な連中。コスプレを通じて自己変革する少女。ぐちゃぐちゃに虐められる少女。人間しか食べられない少女。ドッペルゲンガーに襲われた少女と、その謎を追う使えない男。そして…予言者達。私は連中の巻き起こす渦に呑まれ、時には呑み込んで驀進を続けた。その果てに用意されていたのは、やはりあの馬鹿げた世界。…予言。あの時の私は、それで何を得たのだろうか。ま、別に知った事じゃないけどさ。

 

1

お腹が空いた……。

もう十日間、何も口に入れていない。

胃は空っぽ。

空っぽ過ぎて吐き気が込み上げて来る。

吐く物もないけれど。

私は中央区の中心部を食べ物を求めて歩いてい
た。
どこかに美味しいお肉を分けてくれる心優しい人はいないだろうかと、淡い期待を抱きながら。
勿論、そんな奇特な人間など、そうそういない事は認 識している。
全身は生まれたばかりの羊みたいに震えていた。
七月一日。
季節は無条件に暖かさを振りまく夏に入ったと云うのに、寒い。
そして胃がキリキリと締めつけられるように痛い。
全身を支配する異様な倦怠感。
濃霧のような目の霞み。
そして引っくり返ったカタツムリよりも遅い歩み……。
私の身体の活動時間も、そろそろ限界のようだ。
非常に危険な情況。
ここまで酷いのは前代未聞。一刻も早く空腹を満たさなけれぱ……わっ。
体力の限界と視界条件の悪さが重なり、私は躓いて道路に転んでしまった。
朦朧としているせいで、その痛みはぽんやりしたものだったが、しかしダメージ量は変らない。
膝を擦りむいてしまったようだ。
皮膚が破れ、血が滲み出ている。
ああ……何て勿体ない。
そうは思ったが血液を舐めたからと云って満腹感が得られる筈もないし、それに自分の血なんて飲みたくない。
飲尿健康法じゃあるまいし。
私は霞む瞳を擦りながら立ち上がると、痛みを堪えて
再び歩き出した。

(本文から引用

 

 

 

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